落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年11月8日日曜日

金谷宿大井川の隠密

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#55
歌川広重 東海道五十三次 金谷 大井川遠岸


 
↓ PLAYでは千一亭本当が「金谷宿大井川の隠密」でご機嫌を伺います


「ご隠居、なんとか大井川、
渡りましたな、いいお天気で
良かったです」

「そうだな真之介、
『箱根八里は馬でも越すが、
越すに越されぬ大井川』などと
馬子達が唄っておるが、
雨ともなれば、
幾日となく川止めされるところだ。
ん、
どうした、
ニコラス」

「ご隠居、
前を行くのは
隠密ではあるまいか、
な、真之介」

「なに、
おっ、
たしかに、
間違いない、
隠密だ、
いまこそ、
密書を取り返す好機、
拙者が捕まえて」

「まてまて、真之介、
あいつはすばしっこい奴だ、
後ろから追われたと知れば、
たちどころに逃げられてしまおう、
駆け出せば足音で悟られる、
ん、ここはひとつ、
罠を仕掛けて捕まえよう」

「ん、
なんだ、
ニコラス、
その罠とは」

「あ、
いいか、
真之介、
まずは、
我々三人は道端の木陰に身を隠す、
して、
『まてー、隠密』と叫ぶ、
すると、
隠密はハッと振り向くな、
ところが誰もいない、
おやっと思って、
また歩き出す、
そこをすかさず、
また、
『まてー、隠密』と叫ぶ、
すると、
また隠密は振り返るだろう、
が、誰もいない、
おやっと思って、
また歩き出すな、
これを十回もやってみろ、
あんな臆病な隠密だって、
なんだまたか、
冗談じゃねぇよ、
まったく、
てなことで、振り向かなくなる、
そこで、
木陰から出て、そっと近づく、
あ、
その折にはな、
あたかも、
まだ木陰から
叫んでるかのごとく
聞こえるように、
『まてー、隠密』、
『まてー、隠密』という声を
徐々に小さくしながら、
ちかづき、
真後ろまできたところで、
わっと、
背中を羽交い締めだ。
どうです、
これで密書を取り返せますぞ、
ご隠居」

「うーむ、
ニコラスにしては、
見事な作戦だ、
よしっ、
ではさっそく取りかかろう、
そこの木陰に隠れるぞ、
どうだ真之介」

「はい、これなら、
隠密からは、まず見えますまい。
拙者はこの葉っぱの陰から、
見張っております」

「そうか、よし、
じゃ、ニコラス、
大きな声で叫ぶんだ」

「はい、
それでは、
『まてー、隠密』、
どうだ、真之介、
隠密は振り返ったか」

「逃げ出した」


今日の創作都々逸#86

デートの後の ホームの別れ
彼女はホームで 電車は動く
振ってたその手を ゆっくり下げて
振り向きお客に 苦笑い 

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

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