落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年11月2日月曜日

三島宿平作爺さん

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#51
歌川広重 東海道五十三次 三島 朝霧

 ↓ PLAYでは千一亭本当が「三島宿平作爺さん」でご機嫌を伺います


「ご隠居、今夜も酒びたりですね」

「何を言うか、真之介、
ここ三島はな、
湧き出ずる富士山の地下水が、
川となって流れておるゆえ、
実に、料理も、酒も、そして、
人も立派だ。
よく、
オナゴは偉い、
男はだらしない、
などと言うが、
男だって、
爺さんはちがうぞ、
爺さんというのは
偉いんだぞ。
すぐそこの
茶店におった平作爺さんだ、
爺さんのおかげで
有名になったのが、
剣豪荒木又右衛門だ。
平作爺さんの義侠心には
心打たれるぞ、
自分を犠牲にして
仇の居場所を教えたんだ。
真之介も、ニコラスも、
直ぐに爺さんにはなれとは言わんが。
な、真之介」

「ご隠居、
その荒木又右衛門とは。
剣豪とか」

「さよう、『36人斬り』
などともいわれておるぞ、
刀折れても、
直ぐに代わりを持って、
また折れても、
また代わり、
また代わり、
また代わりと
戦ったそうだ、
おっ、酒が無くなりそうだ、
真之介、この旅籠は
風呂の向こうが台所だったな、
冷やでいい、
徳利一本、
持ってきてくれ」

「はぁーぃ、
じゃ行ってきます、
ああ、
いいよニコラス、
一人で行ってくる、
まったく
ご隠居は
人使いが荒いなぁ、
んー、
今夜は冷えるなぁ。
あ、
すいません、
徳利一本ください、
冷やで、
ええ、
そうです、
あ、
どうも。
なんだよ、
部屋まで
持ってきてくれても
いいのになぁ、
ま、
安い分仕方ないか。
ただいま、
ご隠居、
おまた。せ、
なーんだ、
寝ちゃってるよ、
もう潰れちゃったのかなぁ、
いや、まだ早いから、
すぐに起きるだろう。
このまま、
布団を掛けておくか。
あれっ、
ニコラスは、
あーっ、
風呂だな、
一緒に行こうと
言っとったのに、
我慢のない奴だな。
じゃ、
酒はここに置いてと、
おっと、
まだ前のが残ってるぞ、
さらにこんなにあっても、
呑みきれないだろう、
うん、
ちょっと
呑んでみるかな、
いや、
ご隠居が目を覚ましたら
怒られるな、
止めとこ、
ん、
まてよ、
そうだ、
湯呑みに入れて、
押し入れの中で呑めば
わかるまい。
よしっ、
こうして、
おっと、
これでいい。
これで、
押し入れを
そっと開けて、
と、
おっ、
なんだ、
ニコラス、
その方、
押し入れの中で
あっ、
湯呑み持って、
さては、
隠れて酒呑んでたな」

「いや、
これから
呑もうとしてたところだ、
真之介こそ、
湯呑みに酒を入れて、
どうするつもりだ」

「な、
なに、
これは
その方のお代わりだ」

今日の創作都々逸#82

はじめの一膳 ただ食うばかり
おかわりだから あじわえる
            

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