落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年11月16日月曜日

鳴海宿井桁屋の手紙

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#60
歌川広重 東海道五十三次 鳴海名物有松絞り







↓ PLAYでは千一亭本当が「鳴海宿井桁屋の手紙」でご機嫌を伺います


「ご隠居、はらへりました、
ここはずいぶんと
見世が並んでおりますな」

「お、真之介、
ここ鳴海宿は有松絞が有名によって、
みな食い物屋にあらずだ。
先で蕎麦切りでも食べよう、
な、ニコラス」

「ご隠居、今、
向こうの暖簾を撥ねて上げて
出てきたのは、
あれは与作とか言ってる隠密では」

「うむ、ニコラス、
行って、隠密が何をしておるのか、
聞いて参れ」

「はっ、
あっ、いいよ真之介、
一人で大丈夫、
じゃ、行ってきます」

「ご隠居、
ニコラスも言ってましたが、
与作は本当に与作なんですかね、
樵(きこり)みたいな名前ですが」

「ああ、
今度は樵に化けるつもりなのかな、
おっ、戻ってきた」

「ご隠居、井桁屋(いげたや)は
絞りの手ぬぐいを売る傍ら、
熨斗紙(のしがみ)の上書きなど、
字を書くことも商っておるそうで、
いわゆる『代書屋』で。
隠密はどうやら、
手紙の代筆を頼んだようです。
で、その手紙、
何と書いたのか尋ねましたが、
それは言えませんと。」

「うむ、なるほど、
しかし、その手紙、
おそらく、
密書のことについてだろうが、
たしかに、何と書いたのか、
是非とも知りたいものだ。
なあ、ニコラス、
なにか、良き考えはないか」

「そう来ると思って、
もう考えてあります。
真之介が行くのです」

「えっ、オレが行くぅ、
オレが行ってどうする」

「ああ、真之介は、
隠密の弟と言う触れ込みでな、
で、
先程、
兄が、
書いて貰った手紙を
誤って川に流してしまった
というのだ、
ついては、お代は支払うよって、
もう一度書き直して欲しいと、
代書屋に頼むのだ、
さすれば、
まんまと
手紙を手に入れることが出来る、
いかがですか、
ご隠居」

「うむ、
なかなかに
良き考え、
真之介、
早速行って参れ」

「はっ、
たのもう、
たのもう、
あ、
拙者、先程、
その方に手紙の代筆を頼んだ者の
弟でござる、
兄が誤って、
手紙を川に流してしまったゆえ、
再度、書き直しをお願いしたい、
もちろん、その旨、お支払いする、
ん、
にてない、
いや、
似ていないのは、
違うからだ、
あ、
何処がって、
手だ
手が違う、
ん、
それじゃ手違いだって、
あ、
そか、
ごめん、
腹だった
腹違いだ、
な、
似てないだろ、
だから弟だってわけだ、
ん、
あ、
奥で書くのか、
ん、
待っておる」

「あ、ご隠居、
ご隠居、
真之介が、
駆けてきますぞ」

「はっはっ、
ニコラス、
素晴らしいぞ、
大勝利だ。
ご隠居、
これが隠密の手紙です。
ただ、
飛脚手紙ではなく、
置き手紙だそうです」

「どれ、おぅ、
では、さっそく」

「やはり、
密書の内容ですか、
それとも、
ニコラスが言うように
討ち入りの事でござるか、
な、ニコラス」

「うん、
ご隠居、
何と書いてあるのです」

「うん、
ここには
こう書いてある。

ご隠居殿、
ニコラス殿、
真之介殿、
お先に失礼」


今日の創作都々逸#91

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

徹夜で書いたラブレター
渡せば直ぐに彼女の返事
ドキドキしながら開いてみれば
出てきた手紙は 
ボクのだよ

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

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