落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2017年12月23日土曜日

「芝浜」(第74回志ん諒の会・20171217)




(ネタおろし#117) 「錦の袈裟」(第74回志ん諒の会・20171217)




餅つき (第74回志ん諒の会・20171217)




志ん諒のひとり言 その 10

 落語とは何でしょう。
 前回は落語で状況を描写するさいの感情表現を考えました。大切なところだけを単純に示すことで、そのものの本質を呼び起します。いわば、感情表現で状況にスポットライトを当てているようなものです。それは西洋絵画に例えれば、シャルダンの花の絵のようで、周囲をぼかし本質を単純に示します。
 しかし、単純に示すばかりが感情表現の使い方ではありません。
 今回は感情表現の持つ複雑さの表現について、人間関係の描写を通して考えてみます。
 落語で人間関係を描こうとするとき、落語ではどんな人間関係を基本とするのかという定義をさけて通れません。ただ、厳密に考えるならば、これには時代の要請を含めて多くの要素から考えなければならないと思いますので、後の章で考えます。ここでは仮に、ざっくりと、落語の人間関係は「根底には家族的な強い信頼を持つ関係性」つまり「仲良し」と定義しておきます。
 この上で、感情表現の使い方を考えます。
 会話はよくキャッチボールに例えられます。そこで落語の会話をキャッチボールの様子から考えてみましょう。

①「ボール」を投げる
②「ボール」をミットで受ける
③「ボール」を投げやすい握りに持ちかえて投げる

 ここで「ボール」を「気持ち」に置き換えてみましょう。すると会話を表現するときの感情表現の要点が見えてきます。

①「気持ち」を投げ込む時手から離れる動き
②「気持ち」を受けるときミットに収まる動き
③「気持ち」を持ち換える動き

 ここで②の感情表現こそは登場人物が相手に対する気持ちを示す部分で、落語を聴いているお客さんに登場人物の人間関係を象徴的に捉えてもらうための部分です。
 また、「ボール」の滞空時間が距離を示すように、「気持ち」の間が人間関係の距離を示すこともあります。

 これらの要素から、お客は登場人物の互いの関係性と人柄や状況設定を理解します。
 たとえば、「時そば」の会話で、そば屋が
「まことに①冷え込みますよ」
すると男が
「②驚いたよ。あんまり寒いんでね。③こうゆう時にはナンかあったけえものでも腹ん中に入れねえといけねえと思ってさ」
と言います。
 このなんでもない会話でも、息が白くなるほど冷え込んだ江戸のとある道端の風景で、お客が来て喜んでいるそば屋の気持ちと、これから温かいそばを食べられると思って喜びながらも、うまいことやって一文ごまかそうという悪だくみで軽く緊張しながら、常習だからこその手練れな饒舌で上辺だけをなぞるような本心のない言葉を並べている複雑な男の気持ちが伝わってくるように表現したいものです。
 
 次回は感情表現が持つ音楽的な要素から落語を考えます。気持ちの良い落語の音の作り方を考えます。ではまた。

       (来月につづきます)

第74回志ん諒の会
















2017年12月7日木曜日

第75回志ん諒の会チラシ