落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年10月30日金曜日

小田原の蒲鉾

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#50
歌川広重 東海道五十三次 小田原 酒匂川



 ↓ PLAYでは千一亭本当が「小田原の蒲鉾」でご機嫌を伺います


「ご隠居、小田原ですな」

「そうだな真之介、
小田原と言えば蒲鉾だな、
あっちもこっちも蒲鉾屋だ、
ん、どうしたニコラス」

「いえ、
先刻の蝦蟇の油売りに
負けぬくらい、
この蒲鉾屋の売り口上が
なかなかに見事で」

「さよう、
ここは老舗だな、
うまい口上だ。
口上から客に
うまいと言わせる、
さすが老舗だな。
蒲鉾を盛るのだって、
一人前の職人になるには
二十年掛かると言うぞ、
どれ、
入ってみるか、
ん、
たのもう、
あ、
いやいや、
まだどれとは決めておらん、
こっちが蒸し蒲鉾で、
こっちが焼き蒲鉾か、
なに、
味見、
おう、
どれ、
ん、うまい、
ん、うまい、
ニコラスもどうだ」

「ええ、
あ、じゃ、真之介の分も、
真之介、
ほら」

「ああ、
かたじけない、
どれ、
おお、
これは美味い、
が、
なあ、ニコラス、
お向かいの
あの真新しい見世を見ろ」

「なんだ」

「ん、気づかないか」

「ん、なんか変か」

「見ろ、並んでいるのは
竹輪ばかりだ、
なぜかな、
解るかニコラス」

「竹輪屋ってことだろ」

「看板に蒲鉾って書いてあるぞ」

「おお、
たしかに、
なんだ、
真之介でも解らぬ事があるんだな、
ん、
真之介、
ご隠居に聞いてみろよ」

「えっ、オレがか」

「竹輪一時の恥ぞ」

「ったく、
ニコラスは
よく、そう、いろいろと
文句を知っておるの。
どれ、
あの、
ご隠居、
お向かいの新しい見世なんですが、
蒲鉾と書いて、
竹輪ばかり売っているんですが、
なぜです」

「なぜって、
ん、
あれは新しい見世だ、
売り口上もやっとらんだろ」

「なるほど、
口上ができないと、
蒲鉾は売れないんですね」

「いいや、
まだ板についとらんのだ」

今日の創作都々逸#81

うわのそら
居るのに何処を 見ているやらと
無視て妬いても 蒲やせぬ

2009年10月28日水曜日

平塚本陣

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#49
歌川広重 東海道五十三次 平塚 縄手道




 ↓ PLAYでは千一亭本当が平塚本陣」でご機嫌を伺います


「ご隠居、あれに見えるは
なんでござろう、
幕が張り巡らしております、
たいそう立派ですな」

「おお、真之介、
あれは平塚の本陣だ。
贅沢にも総ケヤキ造りだぞ。
本陣は御大名のお宿。
幕は投宿しておる印だ。
手前のは脇本陣といってな、
家臣らが泊まる所だ。
おや、幕の御紋は、
鶴之丸ではないか
鶴之丸とあらば、
三日月藩、森家であろうな」

「ご隠居、三日月藩とは」

「ん、三日月藩はな、
赤穂とは
竜野藩と並んで隣国になる、
参勤交代であろうが、
うーん、
それだけとは思えんな、
ん、
ニコラスどうした」

「いえ、今、
そこの脇本陣から
出てきました女二人、
あの後ろ姿は、もしや、
あれはお花ちゃんと
お母上ではあるまいか、
のぉ、真之介」

「うん、
似ているな、
しかし、まさか、
江戸にいるはずでは、
それに、
我らを追い越せば、
気付くはず、
他人であろう、
ね、ご隠居」

「いや、まさかと言うこともある。
真之介、声をかけてみろ」

「えっ、
またオレですか、
あ、
あー、
あのー、
そこのお二人」

「はい、
あっ、真之介様」

「お、お花ちゃん、
お母上、あーっ、
お元気で、よかったぁ。
心配しておりました。
しかし、また、なにゆえ、
どのようにして、
ここ平塚に」

「ええ、
母上様と一緒に、
飛脚船で参りました。
ここへは、
江戸留守居役の方々と共に、
春日神社の都々逸の会に
出ますの」

「そうなんだ、
へぇー、
飛脚船か、
それはいい、
ね、
ご隠居、
飛脚船で行きましょう」

「いや、真之介、
船は記録が残る、
我々は
人目を忍ぶ旅ゆえ、
船はいかん、
それに、
ワシは船に酔うタチだ」

「その上、ご隠居は
二日酔いと来てる」

「こら、真之介」

「へへっ、
昨日のご隠居を見せたかったなぁ、
なぁ、ニコラス」

「ああ、
もう、酔ったご隠居は
イノシシというよりも、
熊のようでありましたぞ。
どうなることかと
真之介と案じておりますれば、
いくつかアクビを
したかと思うと、
ぱたっと、
熊は冬眠しました」

「そして春が来たか、ニコラス」

「それはその方だろ真之介、
ところで、
御宿はどこでござる、お母上」

「ええ、
お宿はここなの、
脇本陣なんです、
あら、
もしや、
みなさん、
一緒に本陣ですか、
ニコラス」

「いいえ、オランダ人です」

今日の創作都々逸#80

さしさされ 
つづらつづらと お暑くなれば
そこのお宿で すずめましょう
               

2009年10月27日火曜日

平塚の『こめや』



江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#48
歌川広重 東海道五十三次 戸塚(元町別道)
 
 ↓ PLAYでは千一亭本当が平塚の『こめや』」でご機嫌を伺います


「おおー、やっと晩飯です、
ご隠居、腹減りました。
まったく、保土ヶ谷から戸塚は
長かったです、
旅籠の『こめや』という字が
見えた時はほっとしました、
ご隠居、
そんなに酒を呑まれては、
空きっ腹に毒ですぞ」

「いやいや、真之介、
まだまだ宵の口、
酔うのはこれからだ。
たしかに長い道であったが、
次の藤沢、さけの平塚までは、
さらに長い。
今夜はゆっくり、
ここ、『こめや』の牡丹鍋を
味わって休め、
ここ戸塚はな、
潮干狩りでも有名だ。
貝も楽しみだな。
ニコラスは、
オランダ人ゆえ、
肉は良く食らうのであろうな」

「はい、しかし、牡丹肉は
食べたことがありません、
イギリスではアーサー王の
イノシシ狩りが有名ですが。
あっ、きました、ほー、
直ぐ出てくるとは、
なるほど、
ま・さ・に。」

「あっ、わかった、
『座れば牡丹』だろ」

「やるな真之介、
では、拙者が鍋奉行を
買って出ます。
えーと、
真之介、そっちの
貝を取ってくれ」

「ああ、
それ、
ん、
ニコラス、
なぜ、貝ばかり
鍋に入れる」

「牡丹は『うり坊』というぞ、
貝がなければ
売りを入れても無駄になるからな、
ですよね、
ご隠居、
ご隠居」

「ん、あ、
貝など入れては
いかんな、
鍋そんなことをする、
牡丹を食いに来たんだぞ、
貝が無いだろ」

今日の創作都々逸#79

鍋と問われて 違うと言えば
憎い憎いと つつかれる

神奈川宿の朝


江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#47
歌川広重 東海道五十三次 神奈川(台之景)

 ↓ PLAYでは千一亭本当が神奈川宿の朝」でご機嫌を伺います


「では、
参りましょう、ご隠居
いい朝ですな、
今日も晴れましたぞ」

「そうだな真之介、
腹がへったか」

「はい、ペコペコです。
朝からずいぶん人がでてますなぁ。
やはり神奈川は湊ゆえ、
混んでおります、
旅籠が一杯とはビックリしました。
でも、木賃宿でしたが、
いい風呂でしたな」

「ああ、木賃宿は安くていいのだが、
飯が出ないのは不便だな、
おいおい、ニコラス、
早く来い、何を見ている」

「あ、いや、
朝っぱらから、
大声を上げているので。
あれは何かな、
真之介」

「ああ、あれは
蝦蟇(ガマ)の油売りだ、
ニコラスは初めて見たか、
ああやって、
刀を使っては、
どんな傷にも効くといって
売っておるのだ」

「へぇ、どんな傷にも効くのかぁ、
一つ買っておくかな」

「いいや、
ご隠居がお持ちの、
越中富山の万金丹の方が
いいかもしれん」

「え、どっちがいいんだ」

「んー、わからん、
あ、
あそこに水茶屋があるぞ、
ご隠居、朝飯にしましょう、
はい、
では、
たのもう、
たのもう、
おぅ、ここは空いているなぁ、
あ、三人だ、
いや、ここでいい、
出入り口に近い方が、
外が見られて良い。
ここでいいですかな、
ご隠居」

「いや、我々は
人目を忍ぶ旅ゆえ、
奥の方がよい」

「はい、わかりました、
ニコラス、奥へ行こう、
あ、失礼します、
同席させて頂いてよろしいですか」

「もちろんですとも、
あ、風呂でお会いした
ご隠居様ですな、
いや、風呂では、
ご挨拶もいたしませんでした、
失礼しました、
ご出立ですか」

「ええ、京へ上ります。
風呂にいらっしゃった
硯師さんでござるな」

「はい、そのとおり、
硯師です。
ゆっくり
お話ししていたいのですが、
なにぶん、
此処よりは船で参るので、
船出の刻限が迫っておりまして、
では、
これにて、失礼いたします」

「あっ、あ、
行っちゃいましたぁ、
ご隠居、
でも、どうして硯師だって
解ったんですか」

「肩についておる痕だ、真之介、
硯師は硯を彫るのに
こんなにある大きな石のみを
肩に当てて彫っていくのだ、
だから必ず肩に痕が
付いているものなのだ、
ニコラスも見ただろう
肩の痕を」

「はい、見ました、
ちょっ、ちょっと
近くによって貰っていいですか、
あそこで、
こっちを伺っている奴がいますが、
あれは先刻の隠密ではないかと、
な、真之介」

「うん、顔は確かに似ているな、
しかし、奴は町人ではないか、
隠密は確か浪人姿であったぞ、
でしたね、ご隠居」

「いや、確かにあの男だ、
今度は町人に化けおったな、
うむ、
ニコラス今度はどうする」

「この期に及んでは、
聞くのが一番。
相手が町人なら、
無礼にはなるまい、
そうゆう時こその
真之介でござろう、
今度は胴上げされることは
ないだろうからな」

「な、なに、
またオレか、
まったく、
えー、
あー、
あのー、
どちらへいらっしゃいますか」

「えっ、あー、京です」

「あ、ど、どうも、
京だって、ニコラス」

「京だってじゃねぇよ、
隠密か確かめるんだろ」

「そうか、
そうだよな、
えー、
あのー、
お、お仕事は何を」

「えっ、あー、硯師です」

「あ、どうも、
硯師だって、ニコラス」

「硯師なわけないだろ、
とっさに思いつかなかったから、
さっき聞いた硯師を語ったのだ」

「そ、そうか、
それじゃ、
ニコラスも一緒に来い、
えー、
あのー、
硯師さんでしたら、
肩がのみで
やられちゃってるはずでは
ないかと、
その傷がございますれば」

「え、肩、
そ、そうなんです、
肩でしょ、
痛くて、痛くてねぇ」

「あー、
それはいけませんな、
痛いんでしたら、
すぐそこで、
蝦蟇の油を買ったらいいですぞ」

「おい、
真之介、そうじゃないだろ、
オレが聞いてやる。
あの、失礼します。
お聞きしますが、
やはり、
いいのは、
蝦蟇の油より
万金丹ですかな」

今日の創作都々逸#78

ちょっとの笑顔は くすりというが
薬の裏には 毒の顔

2009年10月26日月曜日

ご隠居の若い頃

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

 今日の創作小咄#46
歌川広重 東海道五十三次 川崎(六合渡舟)

ご隠居の若い頃・千一亭本当


「ご隠居、あくびが出るとは
お疲れと見えますな」

「ニコラス、このあくびは
先程の真之介のあくびに
釣られたもの、
釣られて
あくびをすることもあるぞ、
な、真之介」

「はい、その通りです、ご隠居。
それより、後ろを振り向かないで
聞いて下さい。
先の川崎宿、いや品川宿あたりから
気づいたのでござるが、
かなり後ろを、ずっと
付いてきている男がおります。
公儀の隠密では無いかと。」

「なに、さようか、気づかなんだ、
ニコラスも気づいておったか」

「いいえ、さすが真之介だ」

「いやいや、それより、
まこと隠密なのかどうか、
いかがして、
その真偽の程を確かめたらよいか、
隠密ですぅと、
聞くわけにいかんでな、
ニコラス」

「それなら、
こうゆうのはどうだ、真之介、
拙者がしゃがんで草鞋(わらじ)
を脱いで直す振りをするから、
その方は前に回って振り向き、
拙者越しに男の様子を見ろ、
隠密でなければ
そのまま過ぎ行くはずだ」

「それはいい、
では早速取りかかろう、
ご隠居も前へ出て下され、
良いぞニコラス」

「ああ、それっ、どうだ、真之介」

「風体は浪人者だな、
おっ、
しゃがんだぞ、
左の草鞋を脱いだぞ、
やはり、あれは公儀の隠密だ、
間違いないですな、ご隠居」

「いやいや、真之介、
儂(わし)も若い頃は、
前に草履を直す者がいれば、
釣られて草履を脱ぐこともあった」

「なるほど、
ニコラスもういいよ、
神奈川宿までは、まだまだだから、
この先で、もう一度試そう」

「いや、すぐでもいいんじゃないか、
真之介、もう、この辺りで
構わないだろう、前に回ってくれ、
では、それっ、どうだ、真之介」

「おおっ、しゃがんだぞ、
こんどは右の草履を脱いでおる、
これは公儀の隠密に
間違いないですな、
ご隠居」

「いやいや、真之介、
儂も若い頃は、左とくれば右と、
釣られて草履を脱ぐこともあった」

「そうですか、
ニコラス、もういいぞ。
しかし、ご隠居、
これで王手を指せます」

「ん、王手とはなんだ真之介」

「ええ、
こんどはニコラスに替わって、
拙者が草履を脱ぎます。
もう、男には
脱ぐ草履はありませんから、
これで止まれば、
間違いなく公儀の隠密です。
ニコラス、前に回ってくれ、
それっ、
どうだ男の様子は、
ニコラス」

「おおっ、止まったぞ、真之介」

「間違いない、隠密だ、ニコラス」

「あっ、褌(ふんどし)を脱いでおるぞ、
これはどうしたことだ、
真之介」

「慌てておるのだろう、ニコラス、
これは、まさしく、公儀の隠密。
間違いないですな、ご隠居」

「いやいや、真之介、
儂も若い頃は、
釣られて褌を脱ぐこともあった」

今日の創作都々逸#77

釣られるものと
あついあついと 脱いでるうちに
自分ばかりが 風邪を引く
     

2009年10月24日土曜日

海晏寺の石碑

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#46
「あきの色にそむれる紅葉やたてもなく ぬきもさためぬにしきなるらん」
四季江都名所 秋 海案寺紅葉

 
海晏寺の石碑・千一亭本当


「ニコラス、
どうだ、
日本の寺は
綺麗だろ」

「はい、ご隠居、
日本人は菊、庭、盆栽と、
手をかけて自然を楽しむものが

好きなのだと思っておりました。
オランダでは、草花も庭も、
自然のままに楽しむのが
普通でござるよって、
このように、
木々をそのままに、
真っ赤な紅葉を
愛でる姿を見て、
日本人の懐の深さを
感じております。
わざわざ、
ゆきしなとはいえ、
この海晏寺(かいあんじ)に
寄って頂きまして、
ご隠居の優しさ、
痛み入ります」

「いやいや、
ニコラス、
海晏寺がこのように、
皆に解放してくれればこそのこと、
やさしいのは海晏寺のほうだ」

「いいえ、
ご隠居、
『海晏寺るより汝(うぬ)が優し』
でござる」

「はは、
ニコラス、
まいったまいった、
おや、
真之介、
何をしておる」

「あ、いえ、
先程、女達が
紅葉を欲しいというので、
このあたりの枝がよいかと」

「あー、それはならぬぞ、真之介、
枝を折るは不殺生戒にふれること、
つつしめよ。
では、
儂(わし)は本堂に行ってくるから、
ここでニコラスと待っていなさい」

「はい、
あ、行っちゃったよ。
なあ、ニコラス、
見ろよ、
前に広がる海の青で
紅葉の赤が
引き立つなあ」

「ははは、のう、真之介、
このでかい石は何だろうな。

なんだかしらんが、
びっしりと字が彫り込んであるが、

縦に読むのか横に読むのか
こう、どうにも、
難しくてさっぱりわからん。

これは
何と書いてあるのかのう、
さすがの真之介でも

こいつは読めんだろう」

「な、

何を言うか、
わけはない、
ニコラスは、
いろいろと
書いてあると
すぐに難しいと思うのは
それは、
考えがないな。
なにゆえに、
ここに書いてあるのか。
ね、
どうしてこう、
はっきり書いているのか。
少し考えてみりゃあ、
自明の理。
じつに簡単なことだぞ、
ニコラス」

「えっ、これが簡単か、

真之介、
いったいこれは
何と書いてある」

「へン、

『枝を折るな』と書いてある」

 今日の創作都々逸#77

木立ていい娘も 飽き風吹けば 
枝振り見事 散りにけり


 

2009年10月22日木曜日

いろは歌

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう



 今日の創作小咄#45

鈴木春信 ・ 寄菊 

 
 いろは歌・千一亭本当


「ご隠居、
釜屋にやっと着きましたな、
もう真っ暗です」

「そうだなニコラス、
見ろ、庭に菊小屋があるぞ、
おお、今が盛りと咲いておる」

「そうですな、
なにやら仲良さそうな二人が
見ていますぞ、
真之介、
どうだ、
お花ちゃんが
恋しかろう」

「何を言うか、ニコラス、
ご隠居、今が盛りと言えば、
先刻、客引きから
これより直ぐの
海晏寺(かいあんじ)こそ
紅葉の名所と聞きました
明日、女達が海晏寺に
紅葉狩り行くとかで、
どうでしょう、
ゆきしなに寄ってみませんか」

「そのとおり、海晏寺は
御殿山の桜と並んで
紅葉で有名だ、
おやおや、
真之介も隅に置けないの」

「いえいえ、
そういえば、
お花ちゃんのお母上が唄っていた
端唄に

アレ
見やしゃんせ 海晏寺
ままよ 龍田が 高尾でも
およびないぞえ 紅葉狩り
てなのがありましたが、
それですかな、
聞いたことあるよな、ニコラス」

「ああ、
唄といえば
『いろはにほえどちりぬるを』って
紅葉の事であろうかな、真之介」

「そのとおり、いろは歌は
紅葉の歌なれば、
手習いの歌として有名だ」

「それは存じている、しかし、
意味がよくわからん、

『いろはにほへとちりぬるを、
わかよたれそつねならん、
うゐいのおくやまけふこえて、
あさきゆめみしよゑいもせず』

だぞ、
この意味、
真之介は存じおるか」

「もちろんだ」

「まあまあまあまあ、
二人とも、
話は後にして、
部屋へ参ろう」

「はい、
ご隠居、
うわっ、
狭い部屋でござるな、
ここで三人寝られるかな、
真之介」

「そうだな、ニコラス、
まあ、
太ったおくさんだったら
無理かもしれんな、

いやなに、
若旦那がおってな、
紅葉狩りに行って、
酒を飲んでたら、
隣の奴が、
大きな音を立てて
屁をこいてな、

するとちょうど
紅葉がパラパラと
散ったんだ、
周りからドッと笑い声が起きた、
そいつはとっさに、
若旦那のせいに
しょうとしたんだな、

『おい、お前がつねったからだぞ』
と大きな声で言った、
若旦那は言い返そうと思ったが、
そいつは、そう言い捨てて、
逃げて行っちゃった。

悔しくて悔しくて、
その晩は、
酒をたらふく呑んで、
太ったおくさんと
いつものように寝たんだが、

夢を見たんだか
見ないんだか、
酒を呑んだのに
眠れないって話だ、
ニコラス」

「あ、それは
何の話だ真之介」

「何の話って、いろは歌の意味ぞ」

「は、いろはか」

「そうだ、
『いろは』は色づいた葉、
紅葉のことだ、
ゆえに、
『いろはに、ほへと、ちりぬるを』とは
紅葉に、放屁すると、散ったのを、
ということだ、
屁をこいたら紅葉が散っただろ、
で、
『わかよ、たれそ、つねならん』とは
若旦那よ、誰かを、つねったのか、
いや、んなことはない、
てことだな」

「えっ、じゃあ、奥山は」

「奥山じゃないんだ、あれは
『うちのおく』、
家のおくさんのことだ、
だから、
『うちのおく、やまけふ、こえて』は
家のおくさん、山のように、太って、
ってことだよ」

「じゃあ、『あさきゆめみし』は」

「そりゃあ、悔しくて、悔しくて、
眠れないから、うとうとっと、
浅い夢を見た」

「『よゑいもせず』は」

「そんだけ悔しきゃ、
酔えねえだろ」

 今日の創作都々逸#76

後ろ姿を 見送る部屋は
色は匂えど 散りぬるを



2009年10月21日水曜日

品川宿到着

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう



 今日の創作小咄#44

歌川広重 - 東海道五十三次 品川 日の出) 


「ご隠居、
やっと着きましたな、
お疲れでござろう、
おや、
あれは大名行列では
追いついてしまいました」

「おお、
そのとおりだ、
ニコラス、
大名行列の
最後尾だな、
天秤棒の道具箱を

担いでいる二人の前が、
槍持ちの中間(ちゅうげん)だ。
町人も駕籠も
皆両脇に控えているな、
あのように
音もなく
粛々と進むは
見事だ」

「そうだぞ、
真之介、
喋りすぎだぞ」

「おいおい、
ニコラス、
独り言じゃないんだから、
喋りすぎは
その方もだ、
おや、
大名行列が過ぎたら、
わらわらと
女が出てきましたぞ、
四、五人こっちに来ますぞ、
ご隠居」

「ああ、
あれは旅籠(はたご)
の客引き女だ
今夜は定宿の釜屋(かまや)
手配してあれば
真之介、
女どもにそう断って
下がって貰いなさい」

「はい、
承知しました、
こらこら、
我ら定宿あるよし、
下がれ、
こ、
こら、
触るな、
袖を引くな、
いや、
だから、
定、
うわっ、
ちょっと待て、
待て」

「ご隠居、
真之介が胴上げされております」

「なんとのう、
何をしておるのやら、
ま、
われらの代表として
まさしく、
担がれたわけだから、
ここは、
付いて行くしかあるまい」

「おお、
お疲れでしょうに、
ご隠居もやりますな、
で、
釜屋の方は
いかがいたしますか」

「いいや、
釜屋が先だ、
行った先で、
静かに断れば済むこと、
案ずるな、
ニコラス」

「しかし、
それでは、
あの女らは
わめき立てますぞ、
ご隠居」

「釜屋先(かまやせん)」

 今日の創作都々逸#75

疲れているかと 言葉は要らぬ
ほぐしておくれよ かたおもい   



もうすぐ品川宿


 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#43
歌川広重 - 名所江戸百景 南品川鮫洲海岸)


「ご隠居、大丈夫ですか」

「何を言うか真之介、
まだまだ若い者には負けんて、
ほら、見なさい、
船が往来しておるだろ、
あの向こうは鮫洲だ、
水面を覆うような陰は、
海苔だ。
ほどなく、品川宿だぞ」

「そんな、無理なさらずに、
品川から先は
ニコラスと二人で参りますゆえ、
お戻りになってはいかがで」

「気遣いは有り難いが、
子どもだけで行かせる訳には
いかんでな、
旅というのは命がけだ、
『枕探し』などかわいいもの、
一時も油断ならぬのだぞ」

「そうだよ、
ニコラスは寝相悪いんだから、
気をつけろ、
枕なんか
すぐに無くしちゃうだろ、
な、ニコラス」

「なにを言うか、真之介、
『枕探し』とは寝ている時に
金を盗む『悪い奴』だ、
真之介は知らぬのだな」

「な、なにを、ニコラス、
『枕探し』くらい知っておるわ、
寝てる間の泥棒だろ」

「ふーん、
じゃあ、真之介、
『巾着切り』はなんというか」

「それは起きてる間の泥棒だ、
しかるに、
『人探し』だ」

「それじゃ、
見つかって良かったなってことに
なるじゃないか、
泥棒だぜ」

「そうか、
泥棒は見つかっちゃまずいな」

今日の創作都々逸#74

盗めぬままで また日が暮れて
今夜もさがすよ 夢枕
     

2009年10月19日月曜日

旅立ち

今日の創作小咄#42

「なあ、ニコラス」

「なんだ、真之介」

「街道に出る前に
寄ったほうが良いかな」

「お花ちゃんとこか、
良くないと言えば寄らないのか」

「寄らないというのは良くない」

「なんだ、
よくわからないが、
寄りたいんだな」

「ま、
まあ、
な、
ところで、
教兼殿は一緒には
参らぬのかな」

「ああ、
なにやら、
教兼殿が
母を越後に預けようと
いたしたが、
手形がないため
関所で足止めされ、
いたしかたなく、
赤穂の知人に
母を預けたそうだ。
そのため、
公儀に面体が知れることとなり、
同行できぬとのことだ、
あ、
お花ちゃんだぞ、
真之介」

「あら、
お二人とも
ご立派ね、
振り分け行李(こおり)が
格好いいわ、
真之介様」

「ああ、
これだろ、
油紙に包んだんだよ
これで雨に濡れても
へっちゃらさ」

「まあ、
いつも真之介様は
思いつきがいいわ、
ねえ、
お母様」

「粋なのよね、
何処まででしたかしら
真之介様」

「さすがお母上、
京の四条まで行きます」

「あら、内蔵助殿は山科では」

「いえ、
お母上、
今は越されて、
同志と東下りを
待っておられると、
しかしながら、
公儀の密偵の目もあること、
緊要なれどゆるりと参られよ
とのことでござる」

「そうですか、
わたくし達も
できるだけのことは
致します、
ですが、
何事かあったときは、
大御所様を極めこんで、
尻に帆掛けて
逃げるのですよ。
それでは、
お花ちゃん、
火きりがねと火打ち石を
持ってきて、
切り火を切りますからね。
そう、
それでいいの、
じゃ、
真之介様、
後ろを向いて、
えいっ、
えいっ、
えいっ」

「あ、
あっつ、
あっつう、
あっ、
あ、
油紙が燃えてる、
大変だ、
消してくれ、
ニコラス」

「大丈夫、
中はこおりだ」

今日の創作都々逸#73

旅立つ鳥が 残した巣箱
春の芽吹きに 戻ればな
     

ご隠居の落雁

今日の創作小咄#41

「拙者は
ニコラスと
帰ります」

「真之介様、
気を付けて
では
母上様、
参りましょう」

「ああ、
後ろ姿も
見飽きないなあ、
ニコラス、
親子ってのは
後ろ姿がよく似るものだな」

「たしかに、
いいな真之介は
夢中になるものがあって」

「何を言うか、
ニコラスこそ、
重大な使命を帯びて、
これに勝るものはあるまい」

「それは、
真之介も同じぞ、
事の成否は
真之介次第とも言えるのだぞ」

「ああ、
ニコラスは
ケンペル先生愛弟子の蘭学医、
拙者はその通訳という訳だからな、
ニコラスはいいさ、
日本語を知らない振りを
すればよいのだから
こっちは、
オランダ語なぞ
さっぱり解らないのに、
解った振りして
しゃべらなきゃならんのだ」

「そうだな、
しかも、
大石殿一行が
幕府の密命により
釜山の倭館から、
オランダ船にて
帰国した使節
ということだが。
真之介、
これはちょいと
無理があるんじゃないか」

「いやいや、
それもニコラス次第、
事は国と国との戦に
なるやもしれず、
我が日本の命運が
かかっておる事として、
出島のオランダ軍艦の図面を
携えてという事だからな、
ニコラスが
それらしく演れば
上手くいく、
なにせ、
日本人は外人に弱いのだ
あっ、
ご隠居、
どうしました」

「ああ、
ニコラス、
そなたの皿の横に
我が輩の落雁を
置いておいたのだが、
知らぬかな」

「『通航一è???」

「ん、
オランダ語では解らん、
なんと申しておるのだ、
通訳してくれ、
真之介」

「菓子困りました」

今日の創作都々逸#72

子供なら
おかしいおかしい 疑る口は 
お菓子で塞げば 黙るのに
 

2009年10月18日日曜日

討ち入り

今日の創作小咄#40

「池の鯉も
お腹一杯のようだな、
真之介もニコラスも、
お茶はもういいかな、
さて、
皆さん、
いよいよといったところだが、
ここで
本日の主役である
客人を紹介いたそう、
では、
教兼殿」

「ご隠居、
失礼つかまつる、
南八丁堀の在、
矢頭右衛門七教兼でござる、
(やとうよもしちのりかね)
ご隠居には
江戸にいる間、
なにかとお世話いただき、
有り難き幸せ、
皆様、
よろしく、
おたの申す」

「いやいや、
わしと、
教兼殿の父上殿とは
古い友人でな、
8月に父上殿が
亡くなられてからは、
こうして江戸にて
浪々としておられるが、
その実、
教兼殿は
弱冠17歳なれど、
元赤穂藩浅野家家臣である、
いや、
もはや、
多くを語る必要もあるまいが、
皆も存じおるように、
本懐を遂げる、
その日は近いのだ、
また、
なにぶんにも
相手方が嗅ぎ回っておるとのこと、
慎重にも慎重にということで、
本日はお母上の協力で、
内々に都々逸の会ということで
集まって貰った、
それでは、
この会の本意を
教兼殿から、
お願いいたす」

「はい、
ご隠居殿、
実は
拙者、
内蔵助殿の命を受け、
同士らが
江戸へ下る手筈を
整えるのが役目、
その折に、
ニコラス殿、
真之介殿、
お二人の
お力から
必要なのでござる、
ことさら、
ニコラス殿には
是非とも
お願いしたい義が
有り申す。
それは、
オランダ商館の
通行手形でござる。
それをもって、
出島よりの
江戸下りとして、
一行に加わって
貰いたいのだ、
よろしいかな、
ニコラス殿」

「うむ、
若輩の分際とて、
このニコラス、
オランダ人なれど、
赤穂藩士の心中、
お察しいたし、
その行動には、
常に賛同致すところ、
承知いたした。
討ち入りとあらば、
存分に働いて見せましょう、
心得ましたぞ、
教兼殿、
討ち入ればよいのだな」

「いいや、
家ち出ればよい」

今日の創作都々逸#71

用事だと
かこつけ会えば 用事を忘れ
またまた会って また忘れ
     

2009年10月17日土曜日

ゴミ

今日の創作小咄#39

「お母様、
皆、戻りませんね」

「殿方は
上げ潮のゴミと
言ってね、
どこかに引っかかって、
なかなか戻って
来ないものなのよ」

「まったく、
困ったものですね、
あら、
お母様、
お池に鯉が」

「まあ、
かわいいわね、
あ、
お花ちゃん
鯉は
落雁なんか
食べないわよ」

「そんなことないわ、
あらあら、
集まってきたわ、
鯉も落雁が好きみたい、
もうないのよ、
こっちに来ても駄目、
あーあ、
お母様、
お母様の落雁
ちょうだいな」

「もうみんな
鯉にあげちゃったわ、
じゃ、
これでいいかしら」

「えっ、
お母様、
鯉は
一文銭なんか
食べないわよ」

「そんなことないわ、
不忍池に書いてあるの
鯉の餌一文」

「まったく、
母上様ったら、
あら、
みなさん、
お戻りですわ」

「お待たせいたした、
おやおや、
親子でお池見物ですかな」

「ええ、
ご隠居様、
今、
ちょうど、
母上様と
皆様のことを
お噂しておりましたの」

「ほう、
それはそれは。
いやあ、
この真之介と
ニコラスは
実に働き者だ
褒めてやってくだされ」

「いえいえ、
それには及びませぬ、
なあ、ニコラス」

「うん、
で、
お花ちゃん、
我らのことを
なんと噂していたのだ」

「ええ、
殿方は上げ潮のゴミなので、
なかなか戻っては来ないという
ことです。
そうでしょ、
ニコラス様」

「いや、
そのようなことはない。
えっ、
なに、
お母上がおっしゃった。
あっ、
そ、
それは、
いや、
そのようなことは
ないこともないのだが、
あー、
つまりはその、
ご隠居、
頼みまする」

「うむ、
お花ちゃん、
それは厳しい
お言葉だが、
実は真理、
誠、
武士道と云ふは
死ぬ事と見つけたり、
である。
ゴミとは
物の死しての姿。
なれば
男はゴミとなってこそ男。
であるからして、
上げ潮に乗って、
打ち上がっていく様は
正に男の本懐。
お母上は
さすが。
そのように
男を捉えておるとは
日本女性の
鏡であるぞ、
お花ちゃん」

「あら、
ご隠居様は
ずいぶんと
母上様の肩を
持ちますのね、
でも、
それは
日本男子だけの事では
ありませんこと、
オランダでは
違うでしょ、
ねえ、
ニコラス」

「え、
えぇ、
あぁ、
ゴミか、
だから
捨てられたんだ」

今日の創作都々逸#70

引っ越しのゴミ 捨てるはキミに
捨てられた日の 思い出と
         

2009年10月16日金曜日

斎藤道三

今日の創作小咄#38

えー、あぶら、
えー、あぶらぁ
えー、あぶら、
えー、あぶらぁ

・・・

「おや、
ニコラス、
油屋の奴、
静かになったぞ」

「そうだな、
真之介、
あれは
誰かが叱っておるのだな
ちゃんと働けとな」

「油を売るな、
だろ、ニコラス」

「やるな、真之介。
あ、
ご隠居、
お客様はお帰りですか」

「いや、
そうではないのだ
ニコラス、
真之介も、
ちょいといいかな、
頑張って
都々逸を考えているところを
邪魔して悪いが、
力を貸してくれないか、
いや、
なに、
油屋が来たんで
求めたのだが
なにせ
重いのでな
台所まで
運んで貰えると
助かるのだ」

「はい、
ご隠居、
おやすいご用です、
な、真之介。
真之介は
こう見えても
力は人一倍ですから」

「それは
頼もしい、
二人とも、
こっちに来てくれ」

「おお、
油屋が油差しに
注いでおるぞ、
ん、
真之介、
あの棒はなんだ」

「棒、
あれは柄杓だ、
ニコラス」

「いや、
右手は柄杓だろうが、
左手に持つは、
銭に棒を付けた物かな、
ありゃあ、
いったい、
なにをしておる」

「ああ、
あれはな
油屋の作法だ」

「おかしな作法だな
真之介はその訳を知っておるのか」

「もちろんだ。
昔、
斎藤道三が
油屋の頃、
ああやって、
銭の穴に油を通し、
穴に少しでも油がついたら、
お代は要らぬと言って
売り歩いていたと言うのだ」

「それは
知らなかったな、
だが、
斎藤道三はたしか、
坊主、
油売り、
そして、
美濃の国盗り、
戦国大名となった
お方であろう、
立派なお方だ、
だが、
実の息子に
討たれたというから
可哀想だ」

長良川の戦いだな」


「それだ、
その戦いに
娘婿の織田信長が
駆けつけるも
及ばなかった。
道三討たれるの報を受け、
義理の息子の信長は
天に向かって
叫んだそうだぞ」

「どうさーん、
だろ、ニコラス」

「やるな真之介。

しかしな、
油売りから、
大名とは
いささか不思議な話、
そう思っておったが、
銭の穴に油を通すとは、
そのような逸話が残るくらいだ、
斎藤道三は
ただものではない、
流石の達人で
あったのだろうな、
ん、
だからか。
油売りは、
斎藤道三にあやかって、
油を注ぐのに
大事にしておるのだな
柄杓を」

「おや、
ニコラス、
間違ったな。
油を注ぐのに
大事にしてるのは
銭だ」

「いいや、
汲み取りだ」

今日の創作都々逸#69

男と女
水と油だ あわぬと言うな
鹸化重ねりゃ 溶けてゆく
       

2009年10月15日木曜日

源経信の歌

今日の創作小咄#37

「いやいや、
困った
お花ちゃん」

「どうしました
ご隠居様」

「いやなに、
突然の来客でな、
これからというのに、
ちょいと
席を外さねばならなくなった」

「あらら、
それはそれは、
ご遠慮なく」

「そこで、
皆さんに
いきなり
都々逸を作れというのは
いかがと思う故、
まずは、

昔の歌を参考に、
それを少し変える形で
作ってみるのが
良いかと思う。

では、
お花ちゃんの紅で
華やかになった
このモミジの絵の下に
書いておくとしよう、

『大堰川(おおいがわ)
いはなみ高し 
いかだしよ 
きしの紅葉にあからめなせそ』

おや、
奥で呼んでおるようだ、
では、
失礼する、
まあ、
初めてのことだ、
気楽にな」

「行っちゃったよ、
真之介、
どうでもいいけど、
こりゃ、
なんだい、

『大堰川いはなみ高し 
いかだしよ 
きしの紅葉にあからめなせそ』
って、
意味わかんねえ、
なあ、
お花ちゃんはわかるかい」

「全然わからないわ、
真之介様はご存じなの」

「もちろん、存じておる」

「えっ、真之介は知っておるのか」

「ああ、ニコラスには
ちと難しいかもな」

「いや、
なんとなく
わかるのだが、
『いかだしよ』ってところが、
筏って、波が高いんなら、
船の方が良いだろうに、
そう思うだろ真之介」

「ほらほら、
『いかだ』ときたから
筏のことだと思うのが、
オランダ人の浅はかさだ。
これはな『いかだ、し』
ではないのだ、
『イカ出汁』だ」

「なんだって、
イカで出汁をとるのか」

「その通り、
いまじゃ、
臭いと言って、
やらないが、
シャムでは
スルメで出汁を
取っておるのだ、
そのころは、
それを売りにしていた
有名な
大堰川という
料亭があったな」

「なに、料亭」

「そうだ、
大堰川
といえば、
その当時、
ここに来ない大名は
大名じゃないって
言われたくらいの大店だ。

この大堰川に
一人息子がいたが、
これが道楽者の若旦那、
若旦那だけあって、
身体を動かすのが
大嫌い。

動かないで
美味い物を食ってりゃ、
太るのは無理もない。
太った太った。
帯が二人前というから
大した太り方だ。

だから、
趣味は将棋だ。
動かなくてよいからな。

吉原通いの毎日に、
将棋の駒より重い物は
持ったことがないという。

この一人息子に
馴染みの太夫が居た、
それが、
紅葉太夫だ。

その当時の錦絵にも
残るくらいの
いいーーっ女だ。

起請を交わして、
年があけたら
夫婦になろうと
約束していたな。

そんな大堰川に、
岩波という板前がいた、
これがいい男だ、
とにかく、
ぴっとしている、

ニコラスみたいに
たらっとしてないんだ。」

「余計なお世話だ
で、その岩波がどうした」

「いやもう、
この岩波という男、
鼻から、
目から、
眉毛から
着物の折り目も
定規を当てたように
ぴしっと、
通っていて
実に涼やか、
いいーぃ男だ。

しかも、
真面目、
真面目といったって
半端なまじめじゃない、
もう、
包丁以外は手にしない
という真面目ぶりだ、

あまりに
真面目なので
店の主人が心配してな、
少しは遊んだらどうだ
なんて言葉にも
耳も貸さない。

そんな毎日だ、
腕は上がるに上がった。
ついには
並み居る先輩らを尻目に
飛び級で板前頭になった。

喜んだのは
本人よりも、
店の主人だ、
お前しか
この店を継ぐ者はいない
と言いだした。

それを聞いて
怒ったのは
一人息子だ。
おれはどうなると
親に詰め寄ったから大変だ。

勘当だってことになったが、
ちょうどそこに
年があけて、
晴れて夫婦にと
やって来たのが
紅葉太夫だ。

もとより、
大店の一人息子というだけで
起請を交わした女だ、
勘当と聞いて、
すぐさま
ほんに好きなら
別れておくれと
言って
後足で砂をかけたな」

「おいおい、
じゃあ、
前足はどうした」

「そこだよ、
見てろ、
いまに前足が上がるからな、

いいか、
するとそこに、
すいません
私のせいでございますと
詫びを入れたのが
岩波だ。

紅葉太夫は驚いた、
こんないい男が
この大店の跡取りかと。
岡惚れもなにも
あったもんじゃない。

前足が上がった、
上がった、
すぐさま、
岩波さーんと抱きついたが、

岩波は真面目な男、
そんな筋の通らぬ
ことは出来ぬと、
紅葉太夫を突き放す、
紅葉太夫も負けてはいない
こんどは泣きながら
抱きつく、
突き放す、
抱きつく、
突き放す、

しまいには
泣き腫らした目で
すがるが、駄目。

欲を出した紅葉太夫は
とうとう一人になってしまった
という噺だ。」

「ん、
で、
これは何の噺なんだ、
真之介」

「まだわからないのか、
さっきの歌の意味だよ、
ニコラス」

「えーっと、大堰川、って」

「だから、
大堰川って料亭があったんだ」

「いわなみ高し、
いかだしよって」

「岩波って板前が
イカ出汁で
有名になったな
岩波の名が高いのは
イカ出汁のおかげよ
ってことだ」

「きしの紅葉には」

「一人息子は
将棋指しだから
棋士だ、
その馴染みの
紅葉太夫だから
きしの紅葉にだ」

「あからめなせそは」

「結局一人になって
泣いて目を赤くしたから、
あからめなせそだろ」

今日の創作都々逸#68

千腹減る
紙まで食えるが 経った皮では
皮食えないと  身をえぐる
   

2009年10月13日火曜日

きれいな水

今日の創作小咄#36

「では、
真之介、
ニコラス、
お花ちゃん、
そして、お母上殿、
皆に季節に相応しい
兼題を用意いたした。
それは、
『もみじ』だ、
いや、まだ紅葉には
いささか早い故、
ここに、
つたない絵を用意しておいた、
色がなくて寂しいのだが」

「ご隠居様、色でしたらここに」

「おや、お花ちゃん、
絵の具をお持ちか」

「いえ、紅がございますので」

「なるほど、それはよい考え、
では早速、
どれ、
このままでは濃すぎるな、
ニコラス、
そこの、それを取ってくれないか」

「はい、ご隠居。
真之介、
この皿かな」

「そのようだが、
ニコラス、
皿と言い捨てるのは良くないぞ、
ここは作法の場なれば、
お皿と、『お』を付けて言うのだ」

「なるほど、
ご隠居、
この
お皿でござるか」

「ああ、それと、
この紅を溶くのに
きれいな水がいるな、
ニコラス、水を汲んできてくれ」

「はい。
なぁ、
どこから汲めばよいのだ真之介」

「ん、
ここはお屋敷だぞ、
へっついの横には
上水道が来ておる」

「そうか。
それでは
暫しお待ちくだされご隠居、
ただいま行ってまいります」

「何処に行くのだニコラス」

「はい、お水道で」

「それはいかん、
要るのは
きれいな水じゃ」

今日の創作都々逸#67

ゴツゴツ無骨な 頑固な岩も
水と流れりゃ 丸くなる
    

2009年10月12日月曜日

落雁

今日の創作小咄#35

「それよりご隠居殿、
これを」

「なにかなお母上」

「こちらは加賀の砂糖菓子、
頂き物で、
余り物ですけど、
御茶請けにと思いまして」。

「おお、
それは有り難いのだが、
会が終わってから
ゆっくり頂くことにして、
では
早速始めましょう、
ん、
なんだね
ニコラス」

「一つお伺いしてもよろしいか」

「なにかな」

「この
都々逸というのは
役に立つので
ござろうか」

「はて、
役に立つと思えば立つであろうし、
立たないと思えば立たないであろうな、
ただ、ニコラスには
日本語を学ぶ上で
役に立つことだろう、
何故にそう思うのかな」

「日頃、都々逸に触れる機会が
ありませんので」

「そうか、
うむ、
落語にはよく出てくるぞ」

「落語ですか、
ご隠居は落語もするのですか」

「ああ、以前はな、
時々、落語の会を
やってたものだ、
一応、これでも、
落語家である。
うん、
どうだ、ニコラス
落語をやってみるか」

「えっ、
さあ、
できませんよ
なあ、真之介」

「ええ、
私の家にも
いままで落語家さんは
出ておりません故、
たとえ、やったとしても
落語家さんのようには
出来ないと思います」

「そうかな
真之介は
歌舞伎の女形というのを
ご存じか」

「ええ、
もちろん存じております」

「あれは男だ、
男が女を演っておる、
女であれば
それは元々女であるが故、
女であることを示すに
及ばぬが、
男が女を演ろうとすると
女の特徴をことさら示す、
よって、
女より、より女らしい
魅力を出すわけだ、
これと同じく、
落語家でないものが
落語を演れば、
それは落語家を超えて
魅力を出せる可能性が
あるであろうな、
どうだ真之介、
そんな落語を
演ってみたくはないか」

「はあ、
でもご隠居さん、
落語の稽古って
大変なんでしょ」

「それはそうだ、
真之介、
落語は特に、
辛抱だ、
辛抱しなけりゃ
上手くはなれん、
辛抱しなけりゃ、
必ずしっぱいするものだ」

「はい、
わかりました。
あっ、
ニコラス、
駄目だよ、
食べちゃ」

「だって、
お母上が
余り物だって」

「余り物だからって、
辛抱だよ辛抱、
辛抱しなけりゃ
しっぱいするぞ」

「いやいやこいつは、
しょっぱいより
甘い物だ
そうですよね
お母上」

「いえいえ、
これは
わたくしの物じゃなくってよ、
もはや、ご隠居殿。
そうでしょ、
ニコラス」

「なるほど、
ご隠居、
落雁家」

今日の創作都々逸#66

貧しいからこそ 優しさ光る
塩で汁粉は 甘くなる
   

2009年10月10日土曜日

お母上のご挨拶

今日の創作小咄#34

「みんな揃ったようなので、
それでは
都々逸の会を
始めますが、
その前に、
お花ちゃんのお母上に
一言いただきます」

「あらまあ、
ご隠居殿、
困りますわ」

「いやいや、
実はこの集まりの
発案はお母上なのだ。
であるから、
ここはひとつ
お言葉を
いただきましょう」

「突然では、
ねぇ、
では、
ただ今は、
上手に言えぬゆえ、
そのお詫として、
自らを正す意味で、
手持ちの
般若心経を
ここに
据えさせて
いただくということで」

「またまた
そのような
お戯れを」

「あら、
ご隠居殿、
いけませんこと」

「もちろん、
お経を据えたと言って
煙に巻こうということだろうが
そうはいきませんぞ」

「あら、
教がだめなら
明日ね」

今日の創作都々逸#65

傷ついて
も草な男も またぞろ燃えりゃ
懲りも痛みも 消え失せる
  

2009年10月9日金曜日

ふりかけ

今日の創作小咄#33

「あら、
真之介様もいらしたの」

「うん、
ニコラスもいっしょだ
実は
お花ちゃんのお母上が
今日の都々逸の会のことを、
この手紙で
知らせてくれたんだよ」

「あらまあ、
お母様ったら、
よかったら
拝見してもいいかしら」

「ああ、構わないよ」

「どれどれ、
あら、これは
お母様の字じゃないわ」

「えっ、あっ、
それは駄目、
駄目駄目
あ、間違っちゃった」

「あらら、
別のお手紙だったのね
女の方の
お名前がありましたわ」

「いやいや、
これは
頂き物に添えてあった
手紙だ
そう、
さるお方から
ふりかけを頂いたんだ
ふりかけさ、
さゆりだろ」

「あら、
ふりかけなら
ゆかりじゃなくって」

「えっ、
ああ、
それだよ、
その
ゆかりだ」

「さゆりねぇ
どんな関係かしら」

「違う違う、
縁もなければ
ゆかりもない」

今日の創作都々逸#64

愛情を
ふりかけかけた あつあつごはん
さめてしまえば かたくなだ
  

2009年10月8日木曜日

駕籠屋

今日の創作小咄#32

「真之介、
これほどの
野分もめずらしいな」

「ああ、これでは
雨具も役には立つまい、
せっかく父上から
お借りした袴が
汚れてしまうわ、
どうだ、
ニコラス、
ご隠居の所まで
駕籠でいかんか、
いいことに
二軒先が駕籠屋だからな」

「それはよい案だが、
こんな雨では
駕籠屋も休むだろう」

「いいや、ニコラス、
駕籠屋の軒に書いておったぞ、
『どんな天気でも走ります、
カゴだけに、雨など抜けて、
止まりません』とな」

「なるほど、
駕籠屋だけに
うまいこと
舁(か)きやがったな」

今日の創作都々逸#63

草鞋作って おくれと頼みゃ
駕籠に乗るよな 生意気女
二人に担がせ 知らぬ顔
   

都々逸指南

今日の創作小咄#31

「こんにちは、
ご隠居さん」

「おや、
真之介、
久しぶりだね、
どうした」

「いえ、
今度、
ご隠居さんとこで
都々逸の会があると聞きまして」

「おお、
真之介もやるのかい、
そいつは
楽しみだな」

「ええ、
で、今日は
その手解きをしていただきたく、
参った次第で」

「いやいや、
それは
その時のお楽しみと言うことで
よいだろう、
まさか、
都々逸を知らないとか」

「い、いえ、
もちろん
心得てござります、
ただ、
このニコラスが、
なにぶんにも
オランダ人ゆえ
不案内でして
私ではいささか
なにでございますので
ここはひとつ
ご隠居に
御指南のほど
願いたく、
な、
ニコラス」

「えっ、
真之介、
そのほうが、
お花ちゃんの前で
かっこが」

「あーっ、
いえいえ、
お花ちゃんの前掛けに
都々逸を書いたら
かっこがいいと
ニコラスが言うもんですから」

「なるほど、
ニコラスは
都々逸は
知らないんだな」

「ま、まあ、
そうゆうことになりますか」

「そうか、
ではすぐに
都々逸を作るというのは
難しいからな、
どうだ、
まずは
都々逸をひとつ
憶えて、
それを披露するところから
はじめては」

「そうだよ
ニコラス、
そうしろ、
じゃ、ご隠居さん
お願いします」

「うむ、
ではな、

どこが好きかと尋ねる人に
どこが嫌いと問い返す
どうかな」

「はぁ、
これはまた
いいですね、
な、ニコラス」

「ああ、
真之介もそう思うか」

「じゃ、二人とも
これを歌えるようになったら
また来なさい」

「はい、ありがとうございました
ほら、ニコラス」

「ああ、ありがとうございました
・・・
まったく
真之介が
付いてこいと言うから
付いてきたら
これだよ、
都々逸の会で
かっこいいとこ
見せたいのは解るが、
なにも
ご隠居さんに
聞きに行かなくてもよかろうが
おや、
向こうから来るのは
お花ちゃんのお母上じゃないか」

「あら、
まあ、お二人で
どうなさったの」

「今、真之介が
都々逸を習ってきまして」

「あら、いいわね、
真ちゃん、
歌って、歌って」

「ニコラス」

「いいじゃないか、
何事にも
稽古、稽古」

「よしっ、
では、

どこが悪いんだと尋ねる人に
いいわきゃないだろと言い返す」

「あらら、
お二人、
喧嘩もするのね」

今日の創作都々逸#62

口喧嘩
二人の気持ちに あるほど育つ
言の葉重なりゃ 肥になる
   

2009年10月7日水曜日

台風の夜

今日の創作小咄#30

「ニコラス、
雨ばかりか、
風も強くなってきたぞ、
どうやら今夜は
野分(のわけ)
のようだな」

「そのようだな、
オランダでは
野分けのことを
Orkaanと言うんだ」

「へぇ、
べらんめえな職人が
巻き舌で
おっかぁって
呼んでるみたいだな」

「ああ、
日本に来て、
おっかぁって言うんだって
聞いたときには
おっかぁとは暴れん坊なのかと
ビックリしたぞ」

「またまたわかったよ
ネタだろ」

「ははは、
それはそうと、
都々逸の会があるそうだ、
お花ちゃんが行くそうだぞ、
真之介は行くのか」

「ああ、知ってる
行きたいのだが、
ご隠居の茶室だろ、
袴着用のこととあるが、
袴がないんだ、
ニコラスは持っておるのか」

「袴は持ってオランダ」

「またまたわかったよ、
ま、単衣でいくか」

「ダメだ真之介、
それじゃ、
お花ちゃんとの
恋は消えてしまうぞ」

「ん、なんだって、なに」

「袴ない恋になるぞ」

今日の創作都々逸#61

大きな目だねと ほれたらまけよ
振り回されてりゃ 台風だ
   

2009年10月5日月曜日

十五夜の帰り

今日の創作小咄#29

「真之介、
いいお月見だったな、
こうやって、
歩いていると
江戸という所は
ほんとうに
いろんな
あきないが
あるんだな、
そういえば
お花ちゃんちの
あきないは何かな」

「うん、
お花ちゃんちは
いくつか長屋を持っててな
あきないと言えば
貸し家業ってことになるかな」

「なに、
貸し家なぞは
あきないではないぞ」

「えっ、
どうしてだ
ニコラス」

「そこに書いてあるぞ、
見てみろ、
真之介、
ほら、
あきあり
とな」


今日の創作都々逸#60

おまえの家が
オレの家だと 誘いのせりふ
火がつき燃えりゃ 逃げ出され
   

2009年10月4日日曜日

十五夜

今日の創作小咄#28

「きれいなお月様ですこと、
お母様」

「そうね、お二人のおかげで
りっぱなお花見になったわね、
タイはお供えですから、
秋サバからいただきましょ、
こちらが塩焼き、
こちらが味噌煮込み、
ご遠慮なく
召し上がれ」

「はい、いただきます、
真之介、
どうじゃ、
自分で釣った魚の味は
格別だろう」

「いやいや、
これもニコラスが
駿足のおかげぞ」

「それほどの
こともないわ、
うん、美味い、
お花ちゃん、
塩加減が絶妙でござるの、
お花ちゃんは
お料理が上手だね」

「いえいえ、ニコラス様、
そんなことはありません、
お母様の言う通りにしたまでのこと、
格別のこともござりませぬ、
それより、
ご覧あそばせ、
格別は今夜の月でございますわ、
ほら、
はっきりと
ウサギの餅つきが見えますもの、
ニコラス様、オランダでも
ウサギといいますの」

「いや、オランダではロバというが、
日本ではウサギなんですね、
でも、お花ちゃんの白さは
ウサギなんかにゃかないませんよ、
しかし、ウサギというのは
なにゆえ、ウサギというのですかね」

「そうねえ、
お母様ならきっと知ってると思うわ、
ねぇお母様」

「えっ、
そうよ、
ウサギは
一羽二羽と数えるでしょ、
ウサギは
昔は鳥の仲間だったのよ、
だから、
ウサギは走るっていわないでしょ
ピョンピョン飛ぶっていうでしょ。
で白いでしょ
だからね、昔の人は
サギの仲間だと思ったのよ、
でも、捕まえてみたら
違うじゃない、
そこで、
これはサギじゃない、
嘘のサギだ
というので
ウサギになったのよ」

「へぇ、そうなの、
さすがお母様、
いかがです、
ニコラス様」

「うん、
お花ちゃん、
よくわかったよ、
でも、月のウサギだって、
ほんとは
休んだり
遊んだり
居眠りしたいのに
あんなふうに
まじめぶって
仕事してるのは、
なるほど、
ウサギは
嘘つきだからなんだね
お花ちゃん」

「あら、
ニコラス様
どうして
ウサギが嘘つきだなんて
お分かりなの」

「そりゃそうだよ、
お花ちゃん、
餅餅と書いて
ヘイヘイと読みます。
ですから、
下っ端役人のように、
月のウサギは
ヘイヘイと
いたしかたなく
やっておるのでしょう、
ね、お花ちゃん」

「まあ、
おもしろい、
ニコラス様は
漢字にお強くなられましたわね、
ねぇ、
ニコラス様って素敵よね、
真之介様もそう思うでしょ」

「いいや、漢字良くないと思う」


今日の創作都々逸#59

うそとしり 
問い詰められずに 漢字で嘘は
口を塞げば 虚しさよ
  

2009年10月3日土曜日

師匠の誕生日

創作落語#1

筆を使って字を書く
というのは
最近ではさっぱりやりませんが、

小さい頃は
一人前に
お習字を習っていたことがあるんです。

小さい部屋でね、
先生と、何人かの
こどもが
行儀よく座ってるんですが、

この、
お習字というのは
書くのは楽しいんですが、
硯で墨を磨る、
これがめんどう、
退屈です。

そんなとき、
周りを見渡しますと、
難しい言葉が掛けてあったりしてね、

だいだいが
子供の興味を
そそるものはありませんが、

中に
なにやら
面白そうな
彫り物がある

これが
文鎮だったんです。

いや、
文鎮と言っても
我々が
半紙の押さえに使う
のと違って、
こう、
おっきな鉄のかたまりで
それが
人形のようになってるんです。

これはなんですかと先生に聞きましたら、
恵比寿様だそうで、

話は横道にそれますが、
恵比寿様ってのは
日本生まれなんですってね。
それで、
七福神の皆さんの
他の方はみなさん
外国生まれなんだそうですよ。
知りませんでした。

だからか、
外国の方には
日本人はことさら
気を遣います、

この10月は
各地の神様が
男女の縁結びを
相談するため
出雲に集るので、
いつもの場所は
神様が留守になります。
そこで神無月と呼ばれているんですが。

この時期、
他の神様に替わって
留守番して、
守って下さるのが
恵比寿さまです。

でもね、
ほんとは
みんなと一緒に
出雲に行きタイんです。
みんなと騒ぎタイんですね。

だから、
恵比寿様は
わらってるけど、
抱える魚は。
○○
ていうわけです。

この恵比寿様の文鎮が
大っきいのなんのって
子供だったからかもしれませんが
両手で持つのもやっとでしたね。

最近はそんな文鎮は、
ま、
たまに、
古い店先のレジで
伝票をおさえてたりしますが。
まず見かけることが
無くなりました。

見かけなくなったといえば、
この
筆で書く姿というのも
見かけなくなりました。

正月の書き初め
くらいでしょうかね、

まあ、
元旦は
おめでたく、
一年の始まりの儀式
ということなんですが、

ところが、
これが、
最近まで知らなかったんですが、

どうして
元旦がおめでたいかっていうと、

日本人全員が
一つ年をとる日、
つまり、
日本人全員の
誕生日だったんです。

赤ん坊は生まれたときに
一つ、そして、
お正月で二つというわけで、

昔の誕生日は
元旦だったんですね。
お腹の中にいた10月10日も
含めて生まれたときは1才なわけですが、

今、ふつうに
誕生日と言っているのは
明治35年の法律からです。

今の誕生日は
生まれて1年間は
0才だっていうんですから。
これは
もちろん
西洋的です。

ですから、
誕生日に
西洋の
ケーキを食べる
というのは
西洋の儀式なんだと
いうことなんですね、

そんな
誕生日のケーキを
買いに行ってます。

「おう、
源チャン、
源チャン、
なにシャッター
下ろしてるんだ
もう閉めるのかい
ちょっと待ってくれ」

「なんだい、
もう、
いい年なんだから、
おっきな声で
源チャンての
やめろよ」

「いいじゃねぇか、
ケーキ屋
源チャンだ
いいぞ
健ちゃんが
ちょいと
苦み走ってるってやつだな」

「あいかわらずだな、
熊さんは、
で、
どうしたんだい」

「どうしたじゃねぇ
ケーキ買いに来たんだ」

「熊さんがケーキ買うなんざ
珍しいね、
おや、
赤い顔して、
さては、
ごきげんだな
よっぱらってるだろ」

「ああ、
いまな、
師匠の家で
誕生会やってんだ
で、
ケーキがいるって
ことになってな
それじゃ
源チャンとこだってんで
来たんだ、
一つ売ってくれ」

「師匠って、
落語の師匠だろ、
オレ、
こないだ聞いたぞ、
師匠のピアノと一緒の落語、
よかったなぁ」

「そうだろ、
な、
みんな待ってるんだ、
早いとこ
一つ売ってくれ」

「売ってくれったって、
今日はもう売り切れだ、
見ろよ、
よく売れた、
一個もありゃしねえ、
だから
早じまいしてるんじゃないか」

「何言ってんだ、
オレがほしいのは
そんなちっちゃいのじゃないんだ、
誕生日のケーキ、
ほらほら、
こっちなあるじゃないか、
これだよこれ、
この一番大っきいの
これ一つくれ」。

「それはだめだ、
よく見ろ、
前に書いてあるだろ、
三日前までに
ご予約ください
ってさ、
だから無いんだ」

「なんだい、
ないんだったら
作りゃいいだろ、
急いでるんだ、
さっさと作ってくれ」

「おいおい、
そう簡単に作れないから、
予約してくださいってんだ。
熊さんの落語じゃないんだからな
そんな、簡単なもんじゃないんだ」

「簡単に見えるだろ、
落語なんてものは、
簡単に見えれば見えるほど
時間かかってるってもんなんだ
まったく、
ま、
いいや、
じゃ、
わかった、
こうしよう、
現物だからまけろなんてな、
電気屋でコタツ買うみたいなことは言わない、
な、
これ、
これを売ってくれ」

「だめだよ、
これは見本、
見た目はケーキだけど
中身は無いんだ、
空っぽ、
ボール紙のはこに
クリーム塗っただけの物、
ケーキに見えるけど
ケーキじゃないの」

「いいんだ、
師匠が、
ふーってやれればいいんだ、
だから、
ローソクもな、
ほら、
レジの横にあるやつ、
おや、
なんだい、
そのローソクが寄りかかってるのは」

「ん、
ああ、
こりゃ、
恵比寿様の文鎮だよ、
伝票押さえに使ってるんだ」。

「へぇ、珍しい物んだな、
そのローソクも一緒に売ってくれ」

「だから、これは見本なんだって、
売り物じゃないの」

「じゃ、貸してくれよ
な、
どうせもう
閉めるんだろ
だったら、
ここに置いておいたって
師匠んちにあったって
一緒だよ
明日の朝には
必ず返すからさ」

「だめだよ」

「なんでだめなんだ」

「そりゃそうだ、
こいつを持って行ってみろ
師匠はどっか行っちゃうぞ」

「なに、
どっか行くって
どこ行くんだ」

「そうさなあ、
ヨーロッパだな」

「なに馬鹿なこと言ってんだ、
こっちは急いでるんだ、
さっさと、
包めよ」

「まあ聞け、
いいか、
これを持ってここを出る、
すると、前は坂だ
坂の先には石段だ
こんな軽い物だぞ
その酔っぱらった脚で
ふらふら歩いててみろ
ふいとよろけて
落っことしちまうってもんだ
あわてもの」

「わかったから、
師匠はあれで
けっこう気が短いんだから
早くしてくれよ」

「まてって、
ここからだぞ、
石段の角に
タバコ屋がある
あそこには
今年はたちのお花がいるな
知ってるか」

「知ってるもなにも、
町一番のべっぴんだ。
音大でピアノやってるんだ」

「そうよ、
もうこの時間なら
帰って店番してるはずだ、
そこに
お前さんが
こいつを
ドサーっと落としてみろ、
あらたいへん
てなもんで
お花ぼうが飛び出してくるぞ」

「なに、おはなぼうが飛び出す」

「飛び出すだけじゃない、
大丈夫ですかてなもんだ、
思わず拾おうとするな、
お花ぼうの手がのびる
お前さんの手がのびる
思わず触れる
互いの手と手だ」。

「な、
なんだよ、
え、
それでどうなるんだ」

「お花ぼうは
慌てて飛び出したんだ
今時の子はたいてい
ミュールなんて
わけのわかんねぇ物を
はく、
これが慌てて履くと
小指がひもに引っかかって
奥まで入らないんだな
ただでさえ
ちっちゃいつっかけが
そんなんなってたら
もう、
よろよろだ
この箱をもつあげようとしたひにゃ
あーってなもんで、
また落としちまうわ
開けてみると
こんなクリームだらけなんだから、
ひっくりけえったら
そりゃあ、
ぐちゃぐちゃだ
あらー、
どうしましょってことになる
お花ぼうは責任を感じるな」

「えっ、そいつは
かわいそうだ」

「そうだよ、
お前さんは
いいやお花ちゃんのせいじゃない大丈夫、
なんてなことを言うだろ
色男」

「えっ、
そ、そりゃ言うよ、
で、どうなるんだ」

「そうなりゃ、
二人で師匠の家に
謝りに行くだろ」

「うんうん」

「すると師匠は
そんなことには頓着しない人だ
で、お前さんがお花ちゃんを
紹介するな、
すると、
師匠は
ピアノをひけるんなら、
これこれの曲はひけるかなと聞く、
はいひけますとなりゃ、
ピアノで落語ということになる、
お花ちゃんはびっくりするぞ、
で、卒業だ 」

「えっ、いきなり卒業か」

「そう、卒業するとどうすると思う
留学だよ、
ピアノで留学と言えば
ウィーンだ
ウィーンに行ったら
日本の話をするだろ、
当然、一緒に落語をやったという、
是非聞いてみたいと言うことになるな
では、と、お花ちゃんは
師匠に電話する、
お前さんがダメ元で言ったのに
誕生会に出てくれる人だよ、
そりゃあ、
行くわな
ヨーロッパに」

「おいおい、
ぼやっとして
聞いてたら
こんな時間だ
じょうだんじゃねぇ、
ちゃんちゃらおかしいや
ケーキが軽いからすっ飛んで
で、師匠もすっ飛ぶってか
じょうだんじゃねぇ
ささ、はえーとこ
つつんでくれ」

「え、どうだい、
心配になったろ」

「何いってんだい、
だれが
心配なんかするか
いいからはやく
包んで
く、だ、さ、い」

「はいはい、
わかったよ
じゃ、このローソクもだったな
これ、入れとこうか」

「あ、
いや、
そんな
ローソクだけじゃ
軽くていけねえ、
隣のその
でかい恵比寿様の文鎮を
ケーキの中に入れといてくれ」

今日の創作都々逸#58

忙しいのね 会えない訳は
年に一度の 誕生日
   

2009年10月2日金曜日

釣りの帰り

今日の創作小咄#27

「真之介、サバしか
釣れなかったのう」

「うん、サバで
お供えというわけにも
いくまいから、
タイを買ってきたと言っても
お花ちゃんだって
文句はないだろ、
しかも、
こんな立派なタイだぞ、
このタイは
オレが抱えるから、
ニコラスは
魚籠を持ってくれ」

「わかった、
真之介がタイで、
オレがサバだな、
よしっ、
じゃ、
お花ちゃんの家まで
競争だ」

「おいおい、
やめとけニコラス、
オレはこう見えても
早いぞ」

「なにを言うか、
オレは必ず勝てる」

「ずいぶんとな
自信だなニコラス」

「ああ、
お花ちゃんの母上が言っていた、
サバは脚が早いってな」

今日の創作都々逸#57

サバを読まれて 煮詰まり焼いて
嫁にと食わされ 飽きたサバ
   

2009年10月1日木曜日

十五夜の釣り

今日の創作小咄#26

「やっと着いたな
真之介、
海は遠いなでっかいな、
だな
しかし、
十五夜に供える魚を釣ってこいたぁ
お花ちゃんも
人使い荒れえや」

「うん、
タイとかってことだろうな、
ニコラスは
タイとか
日本の魚は
知っとるのか」

「おお、
知ってらあ、
タイ
ヒラメ、

タコ
イカ
マグロ
ヒカリモノ」

「ヒカリモノは違うな、
さては、ニコラス
寿司屋で憶えたな」

「よくわかるな真之介、
おっ、
たくさん釣ってるな
こいつは釣れそうだ

すいません、
そこのお方、
どうですか、
釣れますか」

「おやおや、
つりなさるかね、
ここはつれるだよ、
ほうら、
ビクがいっぱいだ。
だけんど
サバばかりだがね
よかったら
隣で釣ったらええど」

「ありがとうぞんじます、
ふむ、
これがサバですか。
では
遠慮無く、
隣で釣らせていただきます。
真之介、支度はいいか」

「ああ、
これでよかろう、
餌をつけてっと、
それっ、

うーん、
海は波があるから
浮きがゆれるな

あっ、
沈んだ

おい、ニコラス、
浮きが沈んだぞ」

「掛かったんだ、
真之介、
早く引け」

「おおーっ、
ニコラス、
釣れたぞ、
釣れた、
ん、
だが
お供えには
ちょいと
こぶりだ」

「いいや、
サバだ」

今日の創作都々逸#56

釣ったつもりが 餌食われれば
水の流れにゃ 魚はない
   

十五夜のススキ

今日の創作小咄#25

「あ、お花ちゃん」

「あら、真之介様、
どうしたの」

「いや、
お花ちゃんのお母上に
ことづかって、
これから
大川まで
ススキを採りに行くんだ」。

「十五夜のお支度ね」。

「うん、
お団子もできたし、
あとは
お魚と
ボクのススキと
花ちゃんの緋毛氈(ひもうせん)
だけだって」

「そうなの、
これがその緋毛氈なんだけど、
大川行くんだったら、
同じ事だから、
真之介様、
これも一緒に、
お洗濯していただくわ、
よろしくね、

はい、どうぞ、
それと、
これヌカ、
これで洗ってね」。

「えっ、
大川行くのは、
採りに行くんで、
洗濯に行くんじゃないんだ、
それは
お花ちゃん、
違うよ」。

「いいえ、
一緒です。
お洗濯したら、
ススキでしょ」。

今日の創作都々逸#55

ススキならススキと 葉っ切り言えと
葉っぱをかけりゃ 手を切られ