落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年10月17日土曜日

ゴミ

今日の創作小咄#39

「お母様、
皆、戻りませんね」

「殿方は
上げ潮のゴミと
言ってね、
どこかに引っかかって、
なかなか戻って
来ないものなのよ」

「まったく、
困ったものですね、
あら、
お母様、
お池に鯉が」

「まあ、
かわいいわね、
あ、
お花ちゃん
鯉は
落雁なんか
食べないわよ」

「そんなことないわ、
あらあら、
集まってきたわ、
鯉も落雁が好きみたい、
もうないのよ、
こっちに来ても駄目、
あーあ、
お母様、
お母様の落雁
ちょうだいな」

「もうみんな
鯉にあげちゃったわ、
じゃ、
これでいいかしら」

「えっ、
お母様、
鯉は
一文銭なんか
食べないわよ」

「そんなことないわ、
不忍池に書いてあるの
鯉の餌一文」

「まったく、
母上様ったら、
あら、
みなさん、
お戻りですわ」

「お待たせいたした、
おやおや、
親子でお池見物ですかな」

「ええ、
ご隠居様、
今、
ちょうど、
母上様と
皆様のことを
お噂しておりましたの」

「ほう、
それはそれは。
いやあ、
この真之介と
ニコラスは
実に働き者だ
褒めてやってくだされ」

「いえいえ、
それには及びませぬ、
なあ、ニコラス」

「うん、
で、
お花ちゃん、
我らのことを
なんと噂していたのだ」

「ええ、
殿方は上げ潮のゴミなので、
なかなか戻っては来ないという
ことです。
そうでしょ、
ニコラス様」

「いや、
そのようなことはない。
えっ、
なに、
お母上がおっしゃった。
あっ、
そ、
それは、
いや、
そのようなことは
ないこともないのだが、
あー、
つまりはその、
ご隠居、
頼みまする」

「うむ、
お花ちゃん、
それは厳しい
お言葉だが、
実は真理、
誠、
武士道と云ふは
死ぬ事と見つけたり、
である。
ゴミとは
物の死しての姿。
なれば
男はゴミとなってこそ男。
であるからして、
上げ潮に乗って、
打ち上がっていく様は
正に男の本懐。
お母上は
さすが。
そのように
男を捉えておるとは
日本女性の
鏡であるぞ、
お花ちゃん」

「あら、
ご隠居様は
ずいぶんと
母上様の肩を
持ちますのね、
でも、
それは
日本男子だけの事では
ありませんこと、
オランダでは
違うでしょ、
ねえ、
ニコラス」

「え、
えぇ、
あぁ、
ゴミか、
だから
捨てられたんだ」

今日の創作都々逸#70

引っ越しのゴミ 捨てるはキミに
捨てられた日の 思い出と
         

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