落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年10月4日日曜日

十五夜

今日の創作小咄#28

「きれいなお月様ですこと、
お母様」

「そうね、お二人のおかげで
りっぱなお花見になったわね、
タイはお供えですから、
秋サバからいただきましょ、
こちらが塩焼き、
こちらが味噌煮込み、
ご遠慮なく
召し上がれ」

「はい、いただきます、
真之介、
どうじゃ、
自分で釣った魚の味は
格別だろう」

「いやいや、
これもニコラスが
駿足のおかげぞ」

「それほどの
こともないわ、
うん、美味い、
お花ちゃん、
塩加減が絶妙でござるの、
お花ちゃんは
お料理が上手だね」

「いえいえ、ニコラス様、
そんなことはありません、
お母様の言う通りにしたまでのこと、
格別のこともござりませぬ、
それより、
ご覧あそばせ、
格別は今夜の月でございますわ、
ほら、
はっきりと
ウサギの餅つきが見えますもの、
ニコラス様、オランダでも
ウサギといいますの」

「いや、オランダではロバというが、
日本ではウサギなんですね、
でも、お花ちゃんの白さは
ウサギなんかにゃかないませんよ、
しかし、ウサギというのは
なにゆえ、ウサギというのですかね」

「そうねえ、
お母様ならきっと知ってると思うわ、
ねぇお母様」

「えっ、
そうよ、
ウサギは
一羽二羽と数えるでしょ、
ウサギは
昔は鳥の仲間だったのよ、
だから、
ウサギは走るっていわないでしょ
ピョンピョン飛ぶっていうでしょ。
で白いでしょ
だからね、昔の人は
サギの仲間だと思ったのよ、
でも、捕まえてみたら
違うじゃない、
そこで、
これはサギじゃない、
嘘のサギだ
というので
ウサギになったのよ」

「へぇ、そうなの、
さすがお母様、
いかがです、
ニコラス様」

「うん、
お花ちゃん、
よくわかったよ、
でも、月のウサギだって、
ほんとは
休んだり
遊んだり
居眠りしたいのに
あんなふうに
まじめぶって
仕事してるのは、
なるほど、
ウサギは
嘘つきだからなんだね
お花ちゃん」

「あら、
ニコラス様
どうして
ウサギが嘘つきだなんて
お分かりなの」

「そりゃそうだよ、
お花ちゃん、
餅餅と書いて
ヘイヘイと読みます。
ですから、
下っ端役人のように、
月のウサギは
ヘイヘイと
いたしかたなく
やっておるのでしょう、
ね、お花ちゃん」

「まあ、
おもしろい、
ニコラス様は
漢字にお強くなられましたわね、
ねぇ、
ニコラス様って素敵よね、
真之介様もそう思うでしょ」

「いいや、漢字良くないと思う」


今日の創作都々逸#59

うそとしり 
問い詰められずに 漢字で嘘は
口を塞げば 虚しさよ
  

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