落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年10月19日月曜日

旅立ち

今日の創作小咄#42

「なあ、ニコラス」

「なんだ、真之介」

「街道に出る前に
寄ったほうが良いかな」

「お花ちゃんとこか、
良くないと言えば寄らないのか」

「寄らないというのは良くない」

「なんだ、
よくわからないが、
寄りたいんだな」

「ま、
まあ、
な、
ところで、
教兼殿は一緒には
参らぬのかな」

「ああ、
なにやら、
教兼殿が
母を越後に預けようと
いたしたが、
手形がないため
関所で足止めされ、
いたしかたなく、
赤穂の知人に
母を預けたそうだ。
そのため、
公儀に面体が知れることとなり、
同行できぬとのことだ、
あ、
お花ちゃんだぞ、
真之介」

「あら、
お二人とも
ご立派ね、
振り分け行李(こおり)が
格好いいわ、
真之介様」

「ああ、
これだろ、
油紙に包んだんだよ
これで雨に濡れても
へっちゃらさ」

「まあ、
いつも真之介様は
思いつきがいいわ、
ねえ、
お母様」

「粋なのよね、
何処まででしたかしら
真之介様」

「さすがお母上、
京の四条まで行きます」

「あら、内蔵助殿は山科では」

「いえ、
お母上、
今は越されて、
同志と東下りを
待っておられると、
しかしながら、
公儀の密偵の目もあること、
緊要なれどゆるりと参られよ
とのことでござる」

「そうですか、
わたくし達も
できるだけのことは
致します、
ですが、
何事かあったときは、
大御所様を極めこんで、
尻に帆掛けて
逃げるのですよ。
それでは、
お花ちゃん、
火きりがねと火打ち石を
持ってきて、
切り火を切りますからね。
そう、
それでいいの、
じゃ、
真之介様、
後ろを向いて、
えいっ、
えいっ、
えいっ」

「あ、
あっつ、
あっつう、
あっ、
あ、
油紙が燃えてる、
大変だ、
消してくれ、
ニコラス」

「大丈夫、
中はこおりだ」

今日の創作都々逸#73

旅立つ鳥が 残した巣箱
春の芽吹きに 戻ればな
     

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