落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年10月12日月曜日

落雁

今日の創作小咄#35

「それよりご隠居殿、
これを」

「なにかなお母上」

「こちらは加賀の砂糖菓子、
頂き物で、
余り物ですけど、
御茶請けにと思いまして」。

「おお、
それは有り難いのだが、
会が終わってから
ゆっくり頂くことにして、
では
早速始めましょう、
ん、
なんだね
ニコラス」

「一つお伺いしてもよろしいか」

「なにかな」

「この
都々逸というのは
役に立つので
ござろうか」

「はて、
役に立つと思えば立つであろうし、
立たないと思えば立たないであろうな、
ただ、ニコラスには
日本語を学ぶ上で
役に立つことだろう、
何故にそう思うのかな」

「日頃、都々逸に触れる機会が
ありませんので」

「そうか、
うむ、
落語にはよく出てくるぞ」

「落語ですか、
ご隠居は落語もするのですか」

「ああ、以前はな、
時々、落語の会を
やってたものだ、
一応、これでも、
落語家である。
うん、
どうだ、ニコラス
落語をやってみるか」

「えっ、
さあ、
できませんよ
なあ、真之介」

「ええ、
私の家にも
いままで落語家さんは
出ておりません故、
たとえ、やったとしても
落語家さんのようには
出来ないと思います」

「そうかな
真之介は
歌舞伎の女形というのを
ご存じか」

「ええ、
もちろん存じております」

「あれは男だ、
男が女を演っておる、
女であれば
それは元々女であるが故、
女であることを示すに
及ばぬが、
男が女を演ろうとすると
女の特徴をことさら示す、
よって、
女より、より女らしい
魅力を出すわけだ、
これと同じく、
落語家でないものが
落語を演れば、
それは落語家を超えて
魅力を出せる可能性が
あるであろうな、
どうだ真之介、
そんな落語を
演ってみたくはないか」

「はあ、
でもご隠居さん、
落語の稽古って
大変なんでしょ」

「それはそうだ、
真之介、
落語は特に、
辛抱だ、
辛抱しなけりゃ
上手くはなれん、
辛抱しなけりゃ、
必ずしっぱいするものだ」

「はい、
わかりました。
あっ、
ニコラス、
駄目だよ、
食べちゃ」

「だって、
お母上が
余り物だって」

「余り物だからって、
辛抱だよ辛抱、
辛抱しなけりゃ
しっぱいするぞ」

「いやいやこいつは、
しょっぱいより
甘い物だ
そうですよね
お母上」

「いえいえ、
これは
わたくしの物じゃなくってよ、
もはや、ご隠居殿。
そうでしょ、
ニコラス」

「なるほど、
ご隠居、
落雁家」

今日の創作都々逸#66

貧しいからこそ 優しさ光る
塩で汁粉は 甘くなる
   

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