自らの死を覚悟しての電話だった。
「大江さん、ありがとう」
目を閉じると、あの声は今も耳の奥にハッキリと聞こえてくる。
いつものちょっと詰まりながらの早口だけど、とっても優しく、そして悲しく聞こえた。
「なにいってるんだよ。ありがとうっていうのはこっちだよ」
大熊のかすれる涙声に、ただただバカみたいな大声で励ますしか無かった。
そして、山のようなワインが届いた。
学生の頃、音別の夏、池田町のワイン祭りにみんなを招待してくれた。吐くまで呑んだ。笑っては呑み笑っては呑んだ。家に招いてもらい、楽しい思い出をたくさん作ってもらった。
大熊が8浪の私より2才年下なのは薬学部を卒業してさらに歯学部に入学したからだ。希代の努力家である。それゆえ、ふがいない同級生には厳しかった。けれど、私にとっては、世の中にこんな気のいい奴はいないと思える人だった。
6年間、大江大熊のペアとして実習したり、共に机を並べて過ごしたが、一度たりとも裏切られたという思いは無かった。
卒業後に警察歯科医となって活躍していたことからも、なんにでも柔道のスポーツマンシップで真正面から真面目に取り組む姿勢はずっと変わらないんだなぁと感心した。
十勝歯科医師会に声を掛けて私を落語家として呼んでくれた。嬉しかった。そして楽しく美味しい食事をご馳走してくれた。借りばかりで一つも返せないままになってしまった。いやいや、いつか必ず返せる日が来るからそれまで借りっぱなしでごめんよ。
大熊と呼び捨てにできる日がまたくるまで、しばらくさようなら。飲み過ぎないで待っててくれな
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