落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年7月3日金曜日

首屋

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三遊亭圓窓
2009.7.1
 千一亭

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商売となりますとぉ、
これがなかなか大変で
今ですとまずぅ

仕事をしようとなると

お金という
問題が
まっつぁきに
出てきますな

資本がないことには
ぁーなにもできないという
わけなんですがぁ

ところがぁまぁ
落語ン中には
一文もなくとも
大もうけをしたってぇはなしが
ありましてぇ、ぁーあ、
えれぇことんなったなぁ
とうとうこうやって
てめぇの首うってぇ
あるくはめんなっちゃったよ

人間銭のねぇのは
首のねぇのにも劣るってぇけが
まったくだよ、
しょうがねぇ、
残ったのは
てめぇの首だけだ

この首うってぇ
なんとかしよぉ

といってもなあ
ただこぅやって
ぼんやりありぃてるだけじゃあ

何屋だか
わかってもらえねぇや

売り声だよ

なんだか
はずかしいなぁ

みっともねぇしねぇ

まぁ、
やんなくちゃいけねぇや

ぇーどうやりゃいいのかな

ぇぇっ、くくくび
くびやでござい

ぁーこんなちいさいこえじゃいけねぇんだ
もっとおおきいこえでなぁ

くぇっ、

なんだよ、

おれが
ひめいあげてちゃ
しょうがねぇな

ぉあー
だそう
ともうと
こえってぇのは
でてこねぇもんだなぁ
えーくくびっ、
くびぃやぁでぇござい
ぁー、
やの字入れると
あと、
つぅっと出てくんだな
これぇでだいじょ
♪くびやでござい
うめぇぞ
くびはいかがさま
くびやくびくび
くびやでござい
くびはいかがさま
できたての
くびでござい

ちょぉいとぉ
くりやさん

おっ
ありがてぇ
こぇがかかっ
えっ
どーも
ありがとう
ぞんじます

つぶはそろってんの

えー
まぁ
そろってますが

おおつぶもあるんでしょ

あー
おー
おおきいほうじゃ
ねぇんでござんすがねぇ
そろってることわぁ
たしかで
ござんすが

みずっぽくないんでしょ

ぇえー
ちいせぇうち
いどに
おっこったことが
ありますがねぇ
ぇー
それから
あんまり
ふやけて
ないから
だいじょうぶだと
おもうんですが

虫は食ってないでしょ

スッ、
できもんは
ありませんがね

あらいやだ
なんだい
できものてのは
あの
くりでしょ

いぇ
くびなんですが

くびぃ
あらいやだ
なんのくび

えー、
あっしの
くびなんでがす
えー
えー
こういうところを
ひとつ

よろしく、いやだねぇ
まぁ、きみがわるいね
そっち
いっとくれっ

あぁあ
おこられちゃった

そうだよなぁ
くびなんてぇなぁ
かうしと
いやしねぇや

あー
しょーがねぇーなぁ
シー
でもなぁ
だまってるわけに
いかねぇしねぇ

くびはいかがさま

くびやくびくび

くびはいかがさま
ちょいとぉ
あかんぼうが
寝たばっかりなんだよ

おおきなこえださないでおくれ

あー
こえがかかったな
とおもったら
こんどぁ

こごとだよ

おこられちゃったよ

おおきなこえ
だすなったって
こっちぁ
あきないじゃないか

だまってるわけにゃ
いかねぇんだよ

そぅだ
いくら
こうゆう
長屋
ぐるぐるまわって
おおきなこえ
張り上げたって

長屋の
かみさん連中
買ってくれねぇなぁ

くびなんてぇのは
いやだよなぁ

そうだ
りゃんこに
買ってもらおう

おさむらいなら
度胸だってあるしね
ことによると
買ってくれるかもしれねぇ
よしっ

屋敷町まわろ、

くびやくびくび
くびはいかがさま

くびやにござい

おー、異なあきんどじゃのぉ

三太夫
三太夫おらぬか


殿
お呼びでございますか

なにやら
窓下をな
くびやくびくびと
通行するものがある

まことの
くびやであるかあるいは
くりやの聞き違いであるか

ちと
つかまえて
問いただしてみよ




かしこまりました


くびやであったならばな
庭へ案内いたせ

ほれ
三日前に
新刀をもとめたのぅ

切れ味を
試してみるわ

はは
かしこまりました

あいや
そこの町人

ありがとう存じます
あっしのことですか

そのほう
今なんと申して
通行いたした

くびやくびくびと
申しましたんで

お耳触りでしたら
ごかんべん
ねがいますんで

いや
そうでわない

えー
くびや

なんのくびじゃ


なんのくびっていいますがねぇ
あっしの
くびなんで
ごわす

そのほうの

くびか

しかと
さようか


鹿じゃぁねぇんです
ぁの
ちゃんとした
人間なんです

それわぁわかっておる

ことによると
殿が
お買い上げになるかもしれん


こちらの
殿様がぁ

それがしに
付いてきなさい

ほぅですか
どぅ

ありがとう
存じます

いゃあ

けっこうな
お庭ですね
どうも

ひろいしねぇ
そうじ
たいへんでしょうねぇ

だまって
ついてくるのじゃ

ここにひかえておれ

殿
庭に
案内を
いたしましたが

おー
さようか



そのほうが
くびやであるか


どぅも
おはつにおめにかかりやす
よろしく
おたのもうしますんで


そのほう
くびを
てばなすようじゃが
よが買い求めても
差し支えあるまいの

殿様に買っていただきゃあ
こんな
うれしいこたぁ
ござんせん


首代金は
いかほどであるか

えー
えー
十両で
首が飛ぶ
よのなかでござんす
おまけもうしまして

七両二分
頂戴いたします

七両二分
おー
やすいのぅ
そのほう
首代金
いずれの者に
手渡すか

親か
兄弟か

いぇ
あっしが
貰っていきます

これこれ
うろたえるな

そのほうは
首を手放すのじゃ
七両二分は
親元へ届けるか
あるいは
親類の者へ

えー
あっしが
もらっていきたいんで
ござんす
えぇ
どうせあっしはねぇ
極楽へ行けるような
もんじゃ
ござんせんで
地獄にまわされると
思うんですがねぇ

三途の川ぁ
渡るんでも
銭がねぇことにゃ
乗せてくれませんでねぇ

ですから
七両二分
懐に入れて
あっしゃあ
いきますんで

おーー
三太夫
だいぶ
うろたえておる

不憫じゃ

七両二分
手渡してやれ

どうじゃ
勘定いたせ
足りないと申しても
戻ってはこられんぞ

へぃ
確かに
七両二分
頂戴いたしました

懐へ
入れました


さようか
しからば
買い求めるぞ

へい
よろしく
おたの
もうします

これっ!
支度をいたせ

ははぁっ

中間が
何人か出てきました

一人の
中間が
庭の真ん中へ
ムシロを敷きます
首屋が
その上に
座り込む

もうしとりの中間が
水をいっぱい張った
手桶を
持ってきます
三太夫さんが
新しい刀を
殿様に
手渡す



鞘ぁはらって
差し出しますと
三太夫さんが
柄杓に
水をくんで
ツバもとに掛けます

これが
すぅっっっっと
走る

帽子先から
ぽたり


ぽたり

首屋
そのほうの
首を
買い求める

なにか
言い残すことはないか


この世に
未練は
ねぇつもりで
あきねぇに
へぇりましたが
そぉ
おっしゃって
いただきますと
甘えたくなりますんで
娑婆の見納めを
さしていただきとう
ぞんじます

むこうの
木戸を
つんとぉ

開け放って
いただければ
ありがたいんですが


無理もなかろう

三太夫
木戸を
開けて


首屋
見ろ
木戸
開いておるぞ

へぃ



へぃ
ありがとう
存じます

じゃぁ
殿様

十分に
お買い上げのほどを

度胸があるのぉ

買い求める
よいか



ぇええーっ
首屋が
ひょいっと
体を躱します
傍らの
風呂敷包みから
張り子の首を
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
これこれこれこれ
これは張り子
その方の首じゃ

こらぁ
看板でござんす




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