落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年9月24日木曜日

今日の創作小咄#19

「大家さん、
ちょうどいいところに来た」

「なんだい、
熊さん、
ひさしぶりだね、
手ぬぐい持って、
湯行くのかい」

「そうなんだけど、
こないだ
祭りの競争で、
うちの長屋からは
オレと辰公が
出たんだけどね、
同時だったんだ。
勝ち負けなしってやつでね、

で、辰公の奴が
どっちが早いか
はっきりしようぜって、
ことになったんだが、
これが、
勝負がつかねぇんだ。
いっつも同時。

で、
大家さんに
どっちがはえぇか
決めてもらおうと思ってね、

大家と言えば親同然、
店子と言えば子も同然
て言うよ、

オレも辰の野郎も、
大家さんに
決めてもらうんなら
文句はねぇんだ」

「おやおや、
そんなことかい、
そうだねぇ、
どうだい、
熊さんは
このあと
どこに帰る」

「どこに帰るって、家だよ」

「では、ここからだったら、
競争するとして、
どこら辺りまで走る」

「そうさね、
お稲荷様ぐらいかな」

「じゃ、そこまで競争して、
勝負がつかなかったとするな。
すると、次はどこまで走る」

「えっ、旦那寺かな」

「では、そこまで行っても、
勝負がつかないときは」

「両国橋かな」

「そこでも
勝負がつかないときは」

「そんな、
両国橋までいったら、
すぐ家だ、
着いちまわあ」

「辰の家にか」

「いや、
オレの家だよ」

「そうだろ、
最後に
帰るのは
自分の家だ、
辰の家じゃないな」

「あたりめえだ」

「かように、
人は皆、
行き先は
それぞれ
ちがうもの

だからな、
どっちが先だ後だなど、
全く意味がない。

大切なのは
行き先に
キチンと
着くことだ
競争など無意味」。

「さすが
大家さんは
言うことが
違わぁ
わかりあした、
どぅも

へへっ、
その通りだよなぁ
まったくだ、
あっ、
またちょうどいいところに
辰の野郎だ」

「おい、熊、
おめえも
湯行くのか」

「辰っちゃん、
お前もかい、
ちょうどよかった
あのな」

「おぅ、話は
勝負してからにしようぜ、
今日こそは
ハッキリさせようぜ、
湯まで競争だ」

「いや、
だからさ、
無意味なの、
無意味、
無意味。

辰っちゃん、
人は皆、
行き先は
違うんだよ」

「一緒だろ、
湯行くんだろ」


今日の創作都々逸#49

追えばにげるし 逃げれば追うし
ちょいと休めば 忘れられ

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