落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2010年2月14日日曜日

ホラの種

「ご隠居、たいへんです」

「ん、どうした真之介」

「いや、なに、このあいだ山へいきましたらね、
大きなイノシシが出て、
こっちに走ってきたんですよ。
拙者はあわてて、かけてきたイノシシのツノを、
つかみましてね」

「おいおい、真之介、
バカなことをいうんもんじゃないよ。
イノシシに、ツノなんか、あるものかね」

「あ、いや、実は、ハネをつかみまして」

「またまた、バカなことをいう。
ハネなんか、どこにあるんだ」

「あーっ。そ、そ、それなら、あの、
どこをつかみましょう」

「まったく、ホラを吹くならもう少しうまく吹きなさい」

「いゃあ、まいりました、さすがご隠居だなあ、
でも、もう少しって、ご隠居、
どうやったらもう少しうまくなれるんですか」

「ははは、そりゃかんたんだ、ホラ茶だよ。
ホラ茶を飲みゃあいい」

「えっ、ホラ茶ですか」

「そうだ、これだ、飲んでみるかい」

「ええ、じゃ、ひとつ、
あっ、あらら、こぼしちゃった、
あーあ、すいません、畳汚しちゃいました、
でも、このホラ茶ってなんです、
聞いたことあ無いなあ」

「真之介が知らないのも無理はない、
ホラの木といって、西国の珍しい木だ、
その葉を煎じて飲むと、
それはそれはうまいホラが吹けるぞ、
ここにその木の種がある、
どうだ、持ってって育ててみるか」

「おっと、あぶねぇ、また、
まんまとご隠居のホラに引っかかるところだった、
ね、そいつぁホラでしょ、
だってそうでしょ、
ホラだもの、根も葉もないはずですよ」

「おぅ、真之介もやるじゃないか、
そのとおりだ、
そもそもホラとはな、法螺貝のことだ。
山伏が使うもので、見た目以上に大きな音が出る。
法螺貝は大きな音がするけれど、
中身が何もなく空っぽだから、
中身のない話や大袈裟なことを言うのを
「法螺を吹く」と言うようになり、
「ほら吹き」と呼ぶようになったな」

「へぇ、じゃ、てことは、
その貝を吹きゃあいいんですね」

「まあ、そういうことだが、ここにはないぞ」

「もう、それじゃあ、
せっかく来たのに『かい』がねえや」

「いいや、貝はなくても吹くことはできるぞ」

「貝がないのに何を吹くんですか」

「畳だよ」

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