落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2014年11月20日木曜日

落語研究14 芝浜2 女房の来歴

勝五郎の女房の父は造り酒屋の次男だった。寛政の改革以降、「下り酒」が江戸に入らなくなってからというもの、酒株を持つ者達はこぞって酒造りに励んだ。父の家は「下らない江戸の酒」の中では、とびっきり美味い酒であった。その頃の酒は度数も糖度も高く、飲みにくいものが多かったのだが、父の酒蔵からは、寒仕込みばかりでなく、四季を通して清流のような呑み心地の、絶品の酒が仕込まれていた。

・女房の祖父は灘の杜氏の息子であったのだから、美味いのも当たり前かもしれない。その長男、女房の父の兄は、否応もなく杜氏を継ぐ。しかし、その長男は、親の期待を一身に背負っては励み、親に負けない腕前を見せた。まさに努力の人だった。米の選定からも疎かにせず、何度も百姓家まで足を運んでは米作りにも関わるという、労を惜しまない人であった。

・ある日、その長男が、谷山村の百姓家を訪ねての帰り道、追い剥ぎに遭遇する。そこで、命の危機から身を挺して助けてくれたのが、あの勝五郎の父だった。

・女房の父は娘の花嫁姿を見る前に、流行病で急逝する。その後、「叔父さん」である父の兄の世話で、大きな酒問屋の若旦那に輿入れする。しかし、六年後、放蕩三昧の夫に見切りをつけ、三行半を書かせ、五歳になる一人息子を連れて、実家である叔父さんの造り酒屋に身を寄せる。

・女房の息子は、三歳の頃から、火事が好きで、五歳の頃には、火消し人足を見ると、喜んで後をついて行くやんちゃな子だった。そんな折々に、女房はキツく叱るのだが、どうしてもとねだられて、ある日、火消し装束の刺し子の半纏を作ってやった。半纏を着て喜ぶ息子の顔が全てだった。それから間もなくのこと、息子は火の見櫓から墜落して死ぬ。

・失意の中、「叔父さん」は見かねて、嫌がる女房に縁談を持ちかける。それが勝五郎だった。歳は自分が年上、しかも件の事情。女房は断った。だが、魚屋として毎日言葉を交わすなか、勝五郎は女房の人柄に心底惚れ込んでいた。そんな勝五郎のあまりの熱心さに、その二年後、ついに叔父さんが間に立って祝言をあげたのだった。

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