落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2014年12月29日月曜日

第40回志ん諒の会チラシ


2014年12月24日水曜日

かさじぞう

●むかしむかし、あるところに、貧乏だけど心優しい、おじいさんとおばあさんがいました。
ある年の大晦日の事です。
おじいさんとおばあさんは、二人でかさを作りました。
それを町へ持って行って売り、お正月のおもちを買うつもりです。
「かさは五つもあるから、もちぐらい買えるだろう」
「お願いしますね。それから今夜は雪になりますから、気をつけて下さいよ」
おじいさんは、五つのかさを持って出かけました。

 家を出てまもなく、雪が降ってきました。
雪はだんだん激しくなったので、おじいさんはせっせと道を急ぎました。
村はずれまで来ると、お地蔵さまが六つならんで立っています。
お地蔵さまの頭にも肩にも、雪が積もっています。
これを見たおじいさんは、そのまま通り過ぎる事が出来ませんでした。
「お地蔵さま。雪が降って寒かろうな。せめて、このかさをかぶってくだされ」
おじいさんはお地蔵さまに、売るつもりのかさをかぶせてやりました。
でも、お地蔵さまは六つなのに、かさは五つしかありません。
そこでおじいさんは自分のかさを脱いで、最後のお地蔵さまにかぶせてやりました。

 家へ帰ると、おばあさんがびっくりして言いました。
「まあまあ、ずいぶん早かったですねぇ。それに、おじいさんのかさはどうしました?」
おじいさんは、お地蔵さまのことを話してやりました。
「まあまあ、それは良い事をしましたねえ。おもちなんて、なくてもいいですよ」
おばあさんは、ニコニコして言いました。

 その夜、夜中だと言うのに、ふしぎな歌が聞こえてきました。
♪じいさんの家はどこだ。
♪かさのお礼を、届けに来たぞ。
♪じいさんの家はどこだ。
♪かさのお礼を、届けに来たぞ。
歌声はどんどん近づいて、とうとうおじいさんの家の前まで来ると、
ズシーン!
と、何かを置く音がして、そのまま消えてしまいました。
おじいさんがそっと戸を開けてみると、おじいさんのあげたかさをかぶったお地蔵さまの後ろ姿が見えました。

そして家の前には、お正月用のおもちやごちそうが山のように置いてありました。

●メリークリスマス、きっと戸を開けてみると、「感謝」が山のように置いてあることでしょう。

2014年12月23日火曜日

落語研究16 芝浜5 改作メモ

「芝浜」を独演会に掛けるのは今回で5回目です。 「芝浜」は2010年の暮れ、独演会第1回の演目でした。あれから5年。落語の探求は未だに迷走を繰り返しています。
しかし、それがどれほどバカげた回り道でも、先に明かりが見えていれば、それでよしと考えています。

今回の「芝浜」はそんな思いで、この一年を締めくくろうと取り組みました。

来年も、幸いにも「芝浜」を話すことが出来るとしたら、その時のために、改作した要点をメモしておくことにしました。

●羽織を布団に見立て、勝五郎が寝床から起き上がる時に羽織を脱ぐ。

●「いいとこだったんだよ。せっかくいい夢をみてたのによ。まだちっとしかねてねえじゃねえか」
(夢を見ていた、その見ていた夢が浜でお金を拾った夢だと、後に勝五郎が自ら思う事になる)

●女房は愛情を込めて勝五郎を起こす。長屋のおかみさんといえども、乱雑すぎないよう、温かく起こす。

●「酒が残ってやがら」
(酔っているから、寒さもあまり感じず、納屋で寝込んでしまう)

●「水瓶の蓋でもあけとけばいいだろ」
「何言ってるんだね、金魚じゃないんだよ」
「そか、お前はオレに鯉だったな」
    (照れて)
「下らないこといってんじゃないよ。早くいっとくれ。ほら、タバコだよ」
(ラブラブを見せる)

●「酒のおかげだ、寒くねえや、いや、夜風が気持ちいいくらいだ」

●「問屋が開くまであの納屋で休んでいるか」
問屋の隣の納屋に立て掛けてある戸板の陰に腰を下ろすと、酒のせいもあって、うとうとっとしたかとおもったら、すっかり寝込んでしまった。
    (酒は抜けて)
「おーさみーっ、いけね、すっかりねちまった、いけねいけね、ねちまっちゃカゼひいちまわ、浜におりて、顔でも洗って一服するか。おや、まだ真っ暗だぜ。」

●「夜の海は暗れえっていうけど、暗れえんじゃねぇや、黒いんだ。真っ黒だぜ。ほら、このキセルの火だけがポツンと赤く光ってら。」
(歌舞伎世話物狂言『芝浜の革財布』では、しばしば舞台を暗転させて、赤い火だけをポツッと舞台に光らせるという演出をします。そこからの表現です。)

●女房がお金をうまく数えられないのを見て、下手にどかして、勝五郎も下手に移動して数える。お金の位置は変わらずに二人が下手に移動することを表現する。

●52両
「お天道様が天下の通用にしろと52両下さったんだよ。52両。ごじゆうにしろってことだよ」
※綾小路きみまろさんのギャグを使わせていただきました。

●「大名暮らしができるぜ」
(オチのために大名を振っておく)

●「十二単でも何一重でも、もういいから一重だらけになっちまえ」

●「ハゼがある?ハゼそんなものしかないの、ま、いいから持ってこい」

●湯に行っての件を言わずに、すぐ女房が起こし、女房が、勝五郎が湯に行って友達と騒いで寝込んだという経緯を語る。

●「また釜の蓋かぁ、お前は釜の蓋が好きだねぇ」
(釜釜って、それこそ釜わねえってやつだよ、蓋あけきゃあの金であけりゃいいだろ)

●女房が不器用に嘘をつく、なんとかしなけりゃという必死さ。生まれて初めて嘘をつく女房。それに気づき一度は嘘をついているなと見破る勝五郎。

●「天ぷらや鰻はいいよ、なんだいこの鯛の造りとか魚、え、家はサカナラだよ!」
(興奮のあまりカミカミに力んで)

●「どうするんだい」
「ですね」
「ですねじゃないよ」

●「お前まえによ、オレとだったら死んでもいいって言ってくれたよな。一緒にしんじまうか」
(ラブラブを見せる)

●「お前さんのおとっつぁんが死んで、お前さんが酒に溺れた、その気持ちは痛いほどよくわかるから、だから今までほっといた。そしたら、酒のせいで商いできなくなっちまった。どうだい、そろそろここらで酒と縁を切って、もとのお前さんに戻って商い始めて見たらどうだい。そうすりゃ、こんな払い、すぐに済んじまうんじゃないのかい」
(生来の酒に溺れる酒好きならば、腕のいい魚屋として評判を呼ぶ訳もなく、酒に溺れずにはいられなかった事情があったのではないか。だからこそ、キッパリと酒をやめることも出来たのではないか。)

●(女房のためと、雪の降る日も足を真っ赤にして売り歩きます。それはそれは一生懸命働きました。三年経った大晦日の夜。)

●帰って、障子に気づき、畳と女房は新しい・・・、「何言ってんのよ、ほら、お茶だよ。」と福茶。輪飾り、張り提灯、薪をくべて火をおこしてやんなきゃ、掛け取りにゃ火が何よりのごちそうだからな。

●「押し入れの布団の陰に隠れた。布団てなああったけえなあって思ったぜ」
(長屋に押し入れのあるものは少なかったと思われるがあえて)
(次の風呂敷の中で震えていたという寒さを強調するため、温度に注意を向けておく)

●「それにくらべりゃ、今は大名みてえなくらしだ」
(オチのために大名を振っておく)

●「あんだけ人がいっぱいいるとかえって一人で考えてしまうものだ」

●「お前のおかげだななんて思った。まあ、あの頃は酒が一番大事だったが、酒と離れてみてわかった。大事な物はこんなに近くにあったんだなんてな。いやもう昔みてえな暮らしはごめんだ。二度とあんな自分にはもどるめえと思ったぜ。」

●「欺してごめんなさい」
「いゃ、、お、お手をおあげんなって。いゃ、おめえは欺してなんかいねぇよ。あやまるこたあねぇ。そりゃ違うよ」
「えっ」
「うん、おめえは欺したんじゃねえ、回り道したんだよ。。。よく回り道してくれたなぁ。ありがてえ、ほんと、、ほんと、ありがとう」

●「許してくれると思った。だから一番いいお酒を用意しておいたの。のんでくれるかい」

●「今、バサッていったぞ、いや、いったいった、雪だ雪、ほーら、こんなに積もってるよ。おお、綿帽子みたいになって降ってるぜ。いやぁ、雪見酒だな、明日は真っ白な、いーい正月になるなぁ。おっ、おい、増上寺さんの鐘だよ。増上寺さんが除夜の鐘打ち始めた。増上寺さんの鐘を聞きながら、雪を見ながら一杯飲めるなんて、ほんと大名だ。。いや、やっぱりやめとくわ」
「どうしてだい」
「またゆめんなっちゃいけねぇ」

2014年12月22日月曜日

2014年12月14日日曜日

距離

World of Warplanes(ワールド オブ ウォープレーンズ)というネットゲームがある。サーバーと呼ばれるコンピューターに最大30人が集まって、主に第二次世界大戦で使われた各国の軍用機で空中戦を楽しむ。サーバーはまだアメリカだけにしかないため、アメリカの特に東海岸からの参加者が多い。15人対15人の空中戦は正に手に汗握る戦いだ。そこで知り合った戦友達とクランと呼ばれるグループを作り、機体にクランの紋章を貼って戦う。おのずと生まれる連帯感と勝敗への感情の共有は、ゲームと言えども、そこはかとなく嬉しいものだ。それが、実に地球規模の繋がりなんだから、まあ、そう思うとなんともたまらない。コーヒーも美味くなる。


武器は主に機銃だ。距離が近いほど破壊力は大きい。接近して発砲した方が有利だ。なので、戦いとなると、ドッグファイトと呼ばれる追かけっこが、あっちこっちで始まる。そこでは追っている身が追われている身でもある。飛び交う弾丸を避けながら、全力で追って機銃を発射する。もう、夢中だ。必死という言葉がぴったりくる。もちろん、そんなときは笑う「ゆとり」などない。いや、まだまだ未熟だからということも言えるが。

しかし、なんとか相手を撃墜し、はるか遠くで戦っている戦友を助けるべく、穴だらけになった愛機の翼から黒煙をたなびかせながら、全力で駆けつけて行くとき、思わずふと笑いが込み上げることがある。

リアリズム演劇において、観客は役者を通して、役中人物に感情移入する。観客は役中人物へ接近、同化してゆく。その時、正に観客は舞台に夢中だ。それが、ある瞬間、観客は役中人物から離れて、自分自身に立ち返り、演じている役者の上に役中人物を見る。そんなとき、思わずふと笑いが込み上げることがある。

ここで、ブレヒトの言う「距離」が、笑いと密接に関わっていることがわかる。

舞台と観客との距離が短ければ短いほど悲劇的であり、距離をはっきりと意識できるとき喜劇的になる。主観からは悲劇的要素が増し、客観からは喜劇的要素が増してくる。

その距離をどう制御するかが落語家の腕前というわけだ。そんな思いと共に撃墜王を目指すも、今夜も華々しく大空に散っていくボクでありました。

東京ドクターズラグビーフットボールクラブ忘年会



2014年12月4日木曜日

第39回志ん諒の会チラシ



2014年12月2日火曜日

落語研究15 芝浜4 第一分析1 

①(午前3時、八つ半)起床
【舞台】勝五郎の家
【感覚】酒が残って頭が痛い。起き抜けからいろいろ言われてイライラする。「ほっといてくれ」と言うも女房の剣幕に押されてしまう。「わかったわかった、行ってやるよ。」
【課題】支度して出掛ける。

②(午前4時、七つ)浜への路、問屋、浜の夜明け
【舞台】路
【感覚】寒い。暗い。眠い。酔いが残っていて、体が重い。海風が身を切る寒さだ。耳がちぎれるように痛い。潮臭さがたまらない。潮騒の音が大きくなってくる。浜はもうすぐだと感じる。
【課題】河岸に仕入れに行く。眠る。一服して日の出を見る。革財布を拾う。

・ここで切り通しの鐘を聞き、七つだと解る。
「天秤棒担いでまた帰るのかい、いや、帰ったって、またどやされてよっこらしょっとやってこなくちゃなんないもんな。うん、ここらで河岸が開くまで待つか。」問屋の脇にちょいとした納屋があった。勝五郎、立て掛けてある戸板の陰に腰を下ろすと、酒がまた回り始めたのか、ウトウトしたかと思ったら、落ちるように眠る。

「おっといけね、おおっ寒みぃ、いやぁ、すっかり寝ちまった、でもまだ真っ暗だぜ、どんだけ経ったのかな、、、また昨日の酒は、いつまでもいらっしゃるねぇ、頭がガンガンするぜ、そうだ、浜に降りて、一服して、顔でも洗うか。」

漆黒の夜の海、日の出に感謝、帰ってくる漁船、集まる海鳥の賑やかな声。海の水がどんどんキレイになってゆく。「おおっ、小魚がいっぱい見えてきたぞ、おや、なんだい、ありゃ。」
革財布を拾い、慌てて帰る。

③(午前7時過ぎ、六つ半過ぎ)浜から戻る(旧正月を大体2月はじめとすると日の出はおよそ6時40分あたりになる)
【舞台】勝五郎の家
【感覚】走って帰ってきた。息が切れている。濡れた財布で懐が冷たい。誰かが追ってこないかと気が気でない。追っ手が居ないことを知ると安堵する。事情を話すにつれ、歓びが湧いてくる。
【課題】財布を拾った経緯を説明。飲み残しの酒を呑んで一寝入りする。

・④で語られる内容だが、その後は
(午前9時、五つ半)起きて湯に行き、友達を連れて酒盛りをする。
(午後1時、九つ半)酔って寝る。

2014年12月1日月曜日

落語研究15 芝浜3 芝浜の課題

「なぜ」に答えが出ないとき、当然と思っている先入観を捨てることから始めて見るのもいいだろう。
「勝五郎がなぜ立派になれたのか」という問いは、常に、「芝浜」では避けて通れない課題だ。

・改心したのは、酷いことをしたからか、そんな自分に呆れたからか、女房の願いに応えようとしたからか。
また、改心した後、なぜ「人が変わったように」なったのか。なぜ再び自堕落に陥らなかったのか。

・「勝五郎は、酒に呑まれて仕事を反故にするような、自分に甘い、自律心に欠ける、自堕落な人間だった。」という、「当たり前」の先入観を、一度捨ててみることにした。

・不真面目さは、真面目だから故かもしれないと考えた。

・もし、勝五郎が酒に呑まれたのが、真面目だからなのだとしたら。つまり、真面目に酒を呑もうとしたのだとしたらどうだろう。真剣に自堕落になろうとしていたのだとしたらどうだろう。

・そうならば、生きる方向が変われば、噺のように、自堕落から自律に転じる事も頷ける。揺れが無いくらいの真面目さだから、再び「ちょっと一杯のつもりで」のように、「元のお前さん」に戻ることは無かったのだろう。

・だとしたら、朝、起こされて、仕事に「行かされる」場面では、真面目な人が懸命に酒を呑んでいることを示さなければならない。酒を呑む以外に真面目な自分を抑えることが出来ない事を示さなければならない。心の底に信念を湛えた不真面目さを示されなければならない。

・それなのに、強いて仕事に行く理由は、とにかく、女房のすさまじい剣幕に居たたまれなかったからだ。仕方なく出て行くのだ。けっして、納得の上で仕事に行くのではない。

・だから、「叩き起こされる」必要がある。

・女房もまた真面目だ。嘘を突き通したからといって、二面性があるという解釈では、このように、女房が叩き起こす場面は生まれてこないないだろう。上手いことを言って仕事に行かせるくらいの女房だったら、不器用に叩き起こすことなどしないはずだ。

・おそらくは、女房は勝五郎が酒に呑まれていることを許していた。いや、呑ませてあげたいとすら思っていた。必死に勝五郎を奈落から救ってあげたいと思っていた。何より酒がその救いになると。

・しかし、ついに金がなくなり、酒も買ってあげられなくなった。少し前から、このままではいけないと女房は悩んでいた。そして、かわいそうだからと呑ませてあげていたんでは、本当の意味で勝五郎の救いになっていないと気づいたのだ。

・「釜の蓋が開かないんだよ。」は「お酒を買ってあげたくたって出来ないんだよ。」ということだ。助けてあげたい気持ちを、そのまま言えない女房、なんとかしてあげたい気持ちをそのまま言えない女房だ。そこにあるのは、女だから故に本心を言えず、家を守るという大義を振りかざしてしまう女心だ。

・その気持ちを知って勝五郎は、暗い師走の空の下、寒さに震えながらも、女房の温かい気持に包まれて、芝浜に向かって歩き出すのだ。