落語草 (千一亭志ん諒 落語ブログ)

2009年11月25日水曜日

水口宿の隠密

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう






今日の創作小咄#64

歌川広重 東海道五十三次 水口名物干瓢





↓ PLAYで千一亭本当が「水口宿の隠密」でご機嫌を伺います


「ご隠居、あれは」

「おぅ、どうした、真之介」

「え、干瓢(かんぴょう)
売りにしては、
いささか勇ましきいでたちで」

「ん、
あの男か、
たしかに、
袴姿に襷がけ、
鞘払って構えしは
敵討ちか、
果し合いか、
の、真之介」

「いえ、あれは隠密では、
どうだ、ニコラス」

「たしかに、あれは隠密だ、
いよいよ、我らに挑む気だ、
油断するな、真之介、
あの正眼の構えは、
かなりのもの、
ですな、
ご隠居」

「うむ、できるな、
北辰一刀流だな、
油断するな、真之介」

「はい、たとえ、
北辰一刀流だと言えども、
こっちは三人です。
前後から掛かれば、
後ろは無防備、
必ずや勝ちます、
三人相手に、
一刀では太刀打ちできまいと。
おっ、も、もう一刀出たぞ、
ニコラス、あれは」

「うっ、われわれの声が
聞こえちゃったのでござろうか、
ご隠居」

「たしかに二刀流では
背後に死角が少なくなる、
隠密め、
考えたな、
うむ、
あの構えは、
宮本武蔵の二天一流に違いない、
油断するな、真之介」

「はい、たとえ、
二天一流と言えども、
こっちは三人です。
前後から掛かっておる隙に、
もう一太刀あびせれば、
必ずや勝ちます、
三人相手に、
二刀では太刀打ちできまいと。
おっ、も、もう一刀出たぞ、
ニコラス、あれは」

「うっ、われわれの声が
聞こえちゃったのでござろうか、
ご隠居」

「たしかに三刀用意しておけば
死角はない、
隠密め、
考えたな、
油断するな、真之介」

「あっ、
ま、また、一刀出しました」

「なに、四刀とな」

「あっ、
ま、また、一刀出しました、
五刀とは、
あ、なにか下を指さしておりますが、
あれは、
下に置いている笊(ざる)を
指さしておりますぞ、
何事かな、ニコラス」

「あれはきっと、
笊に金を入れろと言うことだろう、
また、金に困って、
隠密め、
今度は奇術師のつもりか、
油断するな、真之介」

「なにを、
ちょこざいな、
ニコラス、
負けられぬぞ、
我らもあっと、
驚かしてやるか」

「いいや、
隠密にゃ、
金はねぇや」


今日の創作都々逸#95

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

彼女の好きな模様替え
テレビの場所がぐるぐる変わる
広くなったと自慢をするが
そこは先月あった場所

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月20日金曜日

関宿道具屋の陣太鼓

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#63

歌川広重 東海道五十三次 関本陣早立 

↓ PLAYで千一亭本当が「関宿道具屋の陣太鼓」でご機嫌を伺います


「ご隠居、ここはたいそう賑やかですな」

「おう、真之介、
ここ関宿は伊勢鈴鹿の関、
街道の別れるところだ、
賑やかと言えば、
ここの夏祭りは凄いぞ、
山車(だし)のでかいこと、
屋根目一杯の大きさだ、
だから、よく『関の山』と言うのは
ここから出た言葉だぞ、
ん、
どうした、ニコラス」

「ええ、
ご隠居、
あの店先で、
何か叩いておりますが」

「おう、
あれは、
道具屋だな、
叩いておるのは太鼓かな、
どれどれ、
おやおや、
小僧さん、
太鼓はそんなところをたたいても
いい音は出ないぞ」

「えっ、
たたいてるんじゃないよ、
はたいてるんだよ、
おじさん、買ってくれるかい、
安くしとくよ」

「うむ、
それは陣太鼓だな、
彼のお方の手土産に
ちょうど良いの、
どうかの、真之介」

「そうですね、
たしか、
山鹿流兵法に通じている方と
聞き及びます、
さぞかし喜ばれることでしょう、
あ、
小僧さん、
あの奥にある、
あの大きな太鼓は、
あれはなんだ」

「ああ、
あれは、
うちに6年も
売れ残ってる太鼓で、
火焔太鼓っていいます」

「なるほど、
誰も買えん太鼓か」

「こらこら、真之介、
では、その陣太鼓、
頂くが、その前に、
音を鳴らしてみんとな、
こうゆうのは外人が上手い、
どうも、生まれ持っての感覚が違うのかな、
さ、ニコラス、
ひとつやって見せてくれ」

「はぁ、
いや、陣太鼓は
初めてです、
では、
おお、
これは
この太鼓の大きさからは
考えられない音ですな、
これは、
いったいどうゆう仕組みで
鳴っておるのかな、
どれ、
あー、でかい音だ、
この太鼓というものは、
中身はどうなっておるのかの、
不思議な物だ、
この中身は、
さすがの真之介も知らんだろう、な」

「な、
何を言うか、
そのくらいのこと、
知っておるわ」

「お、知っておると、
太鼓の中身だぞ、
こんなでかい音を出してる物は
いったい、なんなんだ、
何が鳴ってるんだ」

「なな、なにって、
太鼓の中で鳴っておるのは、
太鼓だ」


今日の創作都々逸#94

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

交通安全週間だ
風船配る婦警さん
呼ばれていそいそ車を寄せりゃ
信号無視ねと捕まった

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月19日木曜日

庄野宿白雨の駕籠かき

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう





今日の創作小咄#62

歌川広重 東海道五十三次 庄野白雨 

 

↓ PLAYで千一亭本当が「桑名宿駿河屋のいけす」でご機嫌を伺います


「ご隠居、ひどい雨です」

「ああ、真之介
ひどい雨だ、
これは止みそうにないな、
ここ庄野からの山道は
追い剥ぎが良く出るところだけに、
こう道が悪くては、
追い剥ぎが出ても、
逃げるに逃げられぬな」

「いえ、
拙者とニコラスで
追い剥ぎなど
やっつけてやります。
まったく、
大変なところですな、
用心せんと。
おや、
駕籠かきが、
駆けておりますが、
見て下され、
駕籠かきは裸ですぞ、
そうかぁ、
かわいそうに、
追い剥ぎにやられたんだな、
だから、
裸で走っておるのだ。
な、ニコラス」

「いやいや、
あれは利口だ、
ほら、
あの駕籠かき笑っておるぞ、
追い剥ぎに会ったのではないぞ、
真之介」

「なんと、ニコラス、
裸にするのは
追い剥ぎ意外にあるまいぞ」

「いいや、
あれは追い剥ぎに会っても
大丈夫なように
用心しての裸なのだ、
旅の知恵に違いない。
さ、さ、さっそく、
真之介、
ご隠居」


今日の創作都々逸#93

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

彼女のひざで耳かきだ
ついでに目薬してもらう
上から落とすの得意と言って
目薬ビンごと落とされる

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月18日水曜日

桑名宿駿河屋のいけす

江戸の頃もきっとこんなふうにねんねしていたのでしょう


今日の創作小咄#61
歌川広重 東海道五十三次 桑名七里渡口

 

↓ PLAYで千一亭本当が「桑名宿駿河屋のいけす」でご機嫌を伺います


「ご隠居、はらへりました」

「おお、ニコラス、
見ろ、
さすが、桑名湊の駿河屋だ。
生簀があるぞ」

「大きいですね、
これ以上の
活きの良さはありませんな、
ん、どうした、真之介」

「ん、
生簀の傍らにおる二人、
あれは
お花ちゃん達ではないかな、
な、ニコラス」

「おいおい、
真之介は
可愛い子を見ると
すぐにお花ちゃんだとおも、
あ、お花ちゃんだ」

「あら、
これはこれは
皆様、
お久しぶりです、
ご隠居様も
お元気そうで」

「いやいや、
かたじけない、
お母上こそ
お元気そうだ」

「ええ、長い船旅で、
少しばかり疲れましたが」

「おお、船で来られたか、
しかし、
またどうして、
此処にいらっしゃるのかの」

「ええ、
桑名神社で
都々逸の会がありまして、
この度は、
西国の方もご出席とのことで、
楽しみにしています」

「おー、
そうでござるか、
ここは良き旅籠、
生簀もりっぱ、
お母上は
相変わらず
お目が高い」

「いえいえ、
あら、
どうしたの、
お花ちゃん」

「ええ、あの伊勢エビが、
珊瑚と合って、とても綺麗です、
ね、真之介様」

「うん、それはとっても綺麗です、
お花ちゃんこそ、でも、綺麗ですぞ、
拙者に合って、
いゃ、冗談でござる」

「で、真之介様は、
どのお魚が綺麗だと思うの」

「えっ、
そうでござるの、
んー、
ヒラメ」

「どうして」

「あ、それは、
白い砂に合っておるからだ、
どこから砂かわからないくらいだ」

「ふーん、
じゃあ、ニコラス様は」

「おーっ、拙者は鯛だ」

「あら、何に合っているの」

「わさび醤油だ」



今日の創作都々逸#92

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

ランチデートの待ち合わせ
ジーンズ姿はいいのだけれど
組んだ足先何かが出てる
良く見りゃ脱いだパンストだ

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月16日月曜日

鳴海宿井桁屋の手紙

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#60
歌川広重 東海道五十三次 鳴海名物有松絞り







↓ PLAYでは千一亭本当が「鳴海宿井桁屋の手紙」でご機嫌を伺います


「ご隠居、はらへりました、
ここはずいぶんと
見世が並んでおりますな」

「お、真之介、
ここ鳴海宿は有松絞が有名によって、
みな食い物屋にあらずだ。
先で蕎麦切りでも食べよう、
な、ニコラス」

「ご隠居、今、
向こうの暖簾を撥ねて上げて
出てきたのは、
あれは与作とか言ってる隠密では」

「うむ、ニコラス、
行って、隠密が何をしておるのか、
聞いて参れ」

「はっ、
あっ、いいよ真之介、
一人で大丈夫、
じゃ、行ってきます」

「ご隠居、
ニコラスも言ってましたが、
与作は本当に与作なんですかね、
樵(きこり)みたいな名前ですが」

「ああ、
今度は樵に化けるつもりなのかな、
おっ、戻ってきた」

「ご隠居、井桁屋(いげたや)は
絞りの手ぬぐいを売る傍ら、
熨斗紙(のしがみ)の上書きなど、
字を書くことも商っておるそうで、
いわゆる『代書屋』で。
隠密はどうやら、
手紙の代筆を頼んだようです。
で、その手紙、
何と書いたのか尋ねましたが、
それは言えませんと。」

「うむ、なるほど、
しかし、その手紙、
おそらく、
密書のことについてだろうが、
たしかに、何と書いたのか、
是非とも知りたいものだ。
なあ、ニコラス、
なにか、良き考えはないか」

「そう来ると思って、
もう考えてあります。
真之介が行くのです」

「えっ、オレが行くぅ、
オレが行ってどうする」

「ああ、真之介は、
隠密の弟と言う触れ込みでな、
で、
先程、
兄が、
書いて貰った手紙を
誤って川に流してしまった
というのだ、
ついては、お代は支払うよって、
もう一度書き直して欲しいと、
代書屋に頼むのだ、
さすれば、
まんまと
手紙を手に入れることが出来る、
いかがですか、
ご隠居」

「うむ、
なかなかに
良き考え、
真之介、
早速行って参れ」

「はっ、
たのもう、
たのもう、
あ、
拙者、先程、
その方に手紙の代筆を頼んだ者の
弟でござる、
兄が誤って、
手紙を川に流してしまったゆえ、
再度、書き直しをお願いしたい、
もちろん、その旨、お支払いする、
ん、
にてない、
いや、
似ていないのは、
違うからだ、
あ、
何処がって、
手だ
手が違う、
ん、
それじゃ手違いだって、
あ、
そか、
ごめん、
腹だった
腹違いだ、
な、
似てないだろ、
だから弟だってわけだ、
ん、
あ、
奥で書くのか、
ん、
待っておる」

「あ、ご隠居、
ご隠居、
真之介が、
駆けてきますぞ」

「はっはっ、
ニコラス、
素晴らしいぞ、
大勝利だ。
ご隠居、
これが隠密の手紙です。
ただ、
飛脚手紙ではなく、
置き手紙だそうです」

「どれ、おぅ、
では、さっそく」

「やはり、
密書の内容ですか、
それとも、
ニコラスが言うように
討ち入りの事でござるか、
な、ニコラス」

「うん、
ご隠居、
何と書いてあるのです」

「うん、
ここには
こう書いてある。

ご隠居殿、
ニコラス殿、
真之介殿、
お先に失礼」


今日の創作都々逸#91

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

徹夜で書いたラブレター
渡せば直ぐに彼女の返事
ドキドキしながら開いてみれば
出てきた手紙は 
ボクのだよ

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月13日金曜日

藤川宿棒鼻の幽霊

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう 
『おはなちゃん』 


今日の創作小咄#59
歌川広重 東海道五十三次 藤川 棒鼻の図

 

↓ PLAYでは千一亭本当が「藤川宿棒鼻の幽霊」でご機嫌を伺います



「ご隠居、棒鼻が立っとります」

「おー、真之介、
やっと、
藤川宿だ、
棒鼻は入り口の標だからな。
おや、
饅頭屋が出ているぞ、
どれ、
たのもう、
三つくれ、
ん、
あと一つだと、
あー、
ぜひもない、
一つでいい、
ん、ん、
じゃ、
これを、
真之介、
二人で分けなさい」

「いえ、
ここは一つ、
ジャンケンで
勝った方が
食べるというのは、
どうだ、
ニコラス」

「おう、
その勝負、
受けて立つぞ真之介」

「よし、
じゃ、
最初はぐぅ、
ジャンケン、
勝った、
悪いなニコラス、
じゃあ、ご隠居、
いただきます」

「おやおや、
宿場に入れば
饅頭屋など
いくらもあるぞ。
あ、
そういえば、
この辺りは、
昔、
おいはぎに合った
娘の幽霊が
無念のあまり
出るところらしいぞ、
どうだ真之介、
幽霊は恐いだろ」

「えっ、
ご隠居、
異な事を、
幽霊など。
それにまだ日も高い、
幽霊は夜中に出るもの、
心配には及びません」

「いやいや、
ここの幽霊は
夜中には出ないそうだ」

「えっ、な、なぜです」

「それだ、
幽霊に会った奴が
聞いたそうだ。
なにゆえに、
夜中に出ないとな、
すると、
幽霊は言ったそうだ、
こんな寂しいところで、
夜中に出たんじゃ、
幽霊が出てきそうだ」

「ははは、
おやおや、
ちょこざいな幽霊じゃの、
片腹痛いというもの、
な、ニコラス
ん、ニコラス
どうした、
うおっ、
なんだよ、
そんな手つきして、
幽霊の真似か、
ニコラス」

「真之介、
うらやましぃ」


今日の創作都々逸#90

呼ばれた名前が オレじゃない
誰だそいつと 彼女に聞けば
そうなの聞こえた 時々聞くの
この部屋きっと 何か居る

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月12日木曜日

二川宿清明屋もう一つの密書

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#58

歌川広重 東海道五十三次 二川 猿ヶ馬場

 

↓ 千一亭本当が「二川宿清明屋もう一つの密書」でご機嫌を伺います


「ご隠居、ただ今、戻りました」

「おう、真之介、どうだった」

「ええ、ここ清明屋の湯殿は
小さい上に、脱衣場も狭くて、
難渋しましたが、
なんとか隠密の駕籠を
探ってきました。
が、どうにも密書は
見つかりませんでした。
ご隠居の方は」

「うむ、この部屋は隠密の部屋の隣、
間はこの襖一つだからな、
忍び込むのにわけはなかった。
ま、ニコラスの忍びも
なかなかだったぞ」

「えっ、それでか、ニコラス、
さっきからネズミ小僧みたいに
なってるが、もう取っていいんだろ」

「あ、ああ、そうだったな」

「で、首尾は」

「ん、それが、密書のみの字も見つからん」

「そうか、
やはり、いずこへかへ隠したのだな、
どうする、ニコラス」

「ん、真之介、
こんなのはどうだ、
そろそろ寝るという頃に、
ご隠居が、
この襖の近くで、
拙者に、
『これこそが真の密書』
と言う、で、
『盗まれたものは』
と、拙者が聞けば、
『あれは半分、
あれだけでは密書にならん、
ゆえに、
これこそが大切、
また盗まれるといかん、
ニコラス、
その方が抱えて眠れ』
と、ご隠居が、
書き付けたものを
拙者に渡す、
拙者は、
『はい、承知しました、
枕の下に入れて寝ますから、
大丈夫です』
と言うな、
それを、隠密は
この襖の向こうで聞いておるはず、
夜陰に乗じて、
盗むのは必定。
そして、
盗んだ密書を、
件の密書の在りかに隠すはず。
そこを
『見つけたぞ、
やはり隠密だったか』
と言って取り返す。
どうだ、真之介」

「おう、
なかなかに良き考え、
ですな、ご隠居」

「うむ、これは
上手くいくと思うぞ、
隣の奴、
まさに奇策だ、ビックリするだろう、」

「あのう、
隣でさっきから聞いてるんで、
ビックリしませんから。
それと、
キサクじゃねぇんで、
与作っていいます」


今日の創作都々逸#89

今日は彼女と お部屋でデート
そんなときだけ 親から電話
誰か居るのと テレビと言えば
テレビですよと 叫ばれる

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月10日火曜日

舞阪宿茗荷屋の鰻

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#57
歌川広重 東海道五十三次 舞阪 今切真景


↓ PLAYでは千一亭本当が「舞阪宿茗荷屋の鰻」でご機嫌を伺います


「ご隠居、はらへりました」

「そうだなぁ、真之介、
もうすぐ鰻が出てくるぞ、
浜名湖と言やあ、鰻だ、
ここ脇本陣茗荷屋で
鰻とは格別ぞ」

「へぃ、いらっしゃい、
鰻重は松竹梅とありやすが、
いかがいたしあしょう」

「ご隠居、
ここはやはり松で」

「いや、
いかんいかん、
松はいかん、
松は不味いぞ、真之介」

「えーっ、
では竹で」

「いや、
いかん、
竹は高けえ」

「で、では
梅ですか」

「そうだ
梅が美味え、
では、梅を三つ」

「へぃ、承知いたしやした、
それじゃぁさっそく、
念入りに支度いたしやすんで、
四半時ほどお時間を頂きやすが、
よろしいですか」

「おう、
承知した、
あ、徳利を一本、
冷やでな。
ん、
お、どうした、ニコラス」

「いえ、
拙者も腹が減りまして、
四半時も待たされては。
食べたい気持ちも
冷めるというもの。
食べたいときが
美味いときでござる。
もそっと早くなりませんかの、
待っているうちに、
食べ時をにがしますぞ、
ご隠居」

「いやいやいやいや、
それは違うぞニコラス、
鰻はな、
松竹梅とある、
ゆえに、
まつたけうめえ」


今日の創作都々逸#88

産地ごまかし 鰻は浜名湖
コンパで何処なの 住所を聞けば
気どった顔して もごもご言うが
ゼンゼンチョウフじゃ 
そりゃ調布

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月9日月曜日

見附宿天竜川の親子

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#56
歌川広重 東海道五十三次 見附 天竜川 



↓ PLAYでは千一亭本当が「見附宿天竜川の親子」でご機嫌を伺います


「ご隠居、船はらくちんです。
あっという間ですな、
もう直ぐ着きますぞ。
みんな船使うから、
天竜川は船だらけですね」

「あー、
真之介、
この天竜川は
『あばれ天龍』とも言ってな、
流れが速いゆえ、船なのだぞ。
しかし、
どうもこの船というものは、
揺れるのがいかぬ、
おー、
船頭さんは、
ずいぶんと色白だが、
船頭になってから
日が浅いと見えるな」

「はぁ、
お客さん、
良くお分かりになりますな、
実は、
私の家は
この先、
見附宿の本陣でございまして、
ちょいと道楽が過ぎましてね、
勘当ということで、
なもので、
ここの親方のお世話で、
船頭にして貰いました。
日が浅いといいましても、
船遊びは
昨日今日じゃぁありませんで、
ですから大丈夫です」

「ああ、
しかし、
前から来る船は竿だが、
船頭さんは艪だね」

「ええ、竿は三年艪は三月
なんてなことを申しますが、
竿なんてものは
差すなんて言いましてね、
物騒なもんですが、
艪はこりゃぁ粋なもんで、
品のいいもんでございあす」

「おや、
どうしてまた、
品がいいんだい」

「ええ、艪の前にはまず
礼がきますでしょ」

「おお、船頭さん、
うまいな、
な、ニコラス」

「はあ、なるほど
れ、ろ、ですか、
ははは、
でも、さらにその前では、
ら、り、ってますが
大丈夫ですかね、
おっ、
あっ、
前から来る船に
乗っておる、
あれは、峠で会った親子では」

「ニコラス先生」

「おおー、
その後、具合はいかがです」

「おかげさまでもうすっかり」

「おー、そうですか、お帰りですか」

「はいそうです」

「おー、どちらまで行かれるので」

「この先、木曽まで参ります、
ニコラス先生はどちらまで行かれるので」

「あ、ええ、拙者もこの先の岸まで行きます」


今日の創作都々逸#87

髪を切ったの 気づかない
靴を替えたの 気づかない
鈍い奴だと 安心してりゃ
浮気して見りゃ 気づかれる

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月8日日曜日

金谷宿大井川の隠密

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#55
歌川広重 東海道五十三次 金谷 大井川遠岸


 
↓ PLAYでは千一亭本当が「金谷宿大井川の隠密」でご機嫌を伺います


「ご隠居、なんとか大井川、
渡りましたな、いいお天気で
良かったです」

「そうだな真之介、
『箱根八里は馬でも越すが、
越すに越されぬ大井川』などと
馬子達が唄っておるが、
雨ともなれば、
幾日となく川止めされるところだ。
ん、
どうした、
ニコラス」

「ご隠居、
前を行くのは
隠密ではあるまいか、
な、真之介」

「なに、
おっ、
たしかに、
間違いない、
隠密だ、
いまこそ、
密書を取り返す好機、
拙者が捕まえて」

「まてまて、真之介、
あいつはすばしっこい奴だ、
後ろから追われたと知れば、
たちどころに逃げられてしまおう、
駆け出せば足音で悟られる、
ん、ここはひとつ、
罠を仕掛けて捕まえよう」

「ん、
なんだ、
ニコラス、
その罠とは」

「あ、
いいか、
真之介、
まずは、
我々三人は道端の木陰に身を隠す、
して、
『まてー、隠密』と叫ぶ、
すると、
隠密はハッと振り向くな、
ところが誰もいない、
おやっと思って、
また歩き出す、
そこをすかさず、
また、
『まてー、隠密』と叫ぶ、
すると、
また隠密は振り返るだろう、
が、誰もいない、
おやっと思って、
また歩き出すな、
これを十回もやってみろ、
あんな臆病な隠密だって、
なんだまたか、
冗談じゃねぇよ、
まったく、
てなことで、振り向かなくなる、
そこで、
木陰から出て、そっと近づく、
あ、
その折にはな、
あたかも、
まだ木陰から
叫んでるかのごとく
聞こえるように、
『まてー、隠密』、
『まてー、隠密』という声を
徐々に小さくしながら、
ちかづき、
真後ろまできたところで、
わっと、
背中を羽交い締めだ。
どうです、
これで密書を取り返せますぞ、
ご隠居」

「うーむ、
ニコラスにしては、
見事な作戦だ、
よしっ、
ではさっそく取りかかろう、
そこの木陰に隠れるぞ、
どうだ真之介」

「はい、これなら、
隠密からは、まず見えますまい。
拙者はこの葉っぱの陰から、
見張っております」

「そうか、よし、
じゃ、ニコラス、
大きな声で叫ぶんだ」

「はい、
それでは、
『まてー、隠密』、
どうだ、真之介、
隠密は振り返ったか」

「逃げ出した」


今日の創作都々逸#86

デートの後の ホームの別れ
彼女はホームで 電車は動く
振ってたその手を ゆっくり下げて
振り向きお客に 苦笑い 

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月7日土曜日

岡部宿柏屋露天風呂

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#54
歌川広重 東海道五十三次 岡部 宇津の山



↓ PLAYでは千一亭本当が「岡部宿柏屋露天風呂」でご機嫌を伺います


「ご隠居、広い風呂ですな」

「そうだなニコラス、
ここ岡部の柏屋(かしばや)
は大旅籠だけあって、
風呂もでかいな。
これだけ人が多いと、
物騒でもあるぞ。
荷物などは取られてもいいが、
困ったのは
この密書だ、
金はこうやって、
手ぬぐいで巻いて、
頭の上に乗せておけばよいが、
密書は湯気で痛むよって、
そうはいかん、
のう、
どうしたらよいかの、
ニコラス」

「そうですな、
この駕籠の下に
隠しておくのが良いかと」

「こらこら、
声がでかいぞ、
それじゃあ、
ここにありますよと
教えているようなものだ、
こうゆうときは
こそっと囁け」

「あ、
はい、
それでは、
そこの植え込みの陰に
隠すというのはいかがで」

「おお、
そうだな、
そうしょう」

「ご隠居、ニコラス、
早く、早く、
この露天風呂は
最高ですぞ、
庭の紅葉と
夕日で
真っ赤です」

「そうか、
そうかそうか、
じゃ、
ワシが先に露天風呂に行ってくるから、
ニコラスは
内風呂から、
脱衣場を見張っていてくれ、
何かあったら頼むぞ」

「はい、ガッテンです」

「おお、
どうだ真之介、
なるほど、
山全体が
くれないに染まっておるのお、
んー、
いい湯だ、
しまった、
徳利を一本持ってくるんだったな」

「そうですね、
山が言っておりますぞ、
呑んでくれないかと」

「ははは、真之介、
ん、
どうしたニコラス」

「いえ、
実は、
・・・」

「ん、
どうした」

「はぁ、
実は隠密が入ってきまして」

「なに、隠密が来たか、
で、どうした」

「密書を盗んでおります」


今日の創作都々逸#85

お酒の好きな ご隠居さん
夜はご機嫌 ご隠居さん
朝にゃ不機嫌 二日酔い
隠居じゃなくて 陰気だよ

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月6日金曜日

府中宿の隠密

 江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#53
歌川広重 東海道五十三次 府中 安倍川


↓ PLAYでは千一亭本当が「府中宿の隠密」でご機嫌を伺います


「ご隠居、ここはずいぶんと
こぢんまりした部屋ですな」

「いやいや、真之介、
襖で仕切ってあるだけだ、
ここは大部屋を
襖でいくつにも
仕切っておるのだ」

「なるほど、
しかし、
ご隠居、
酒の肴には
塩辛いものと
相場が決まっておりますが、
安倍川餅を食べながら、
よく酒が呑めますな」

「なにを言う、真之介、
この甘さが、いいのだ。
ここ駿府の茶店に
大御所様が立ち寄ったところ、
そこの店主がきな粉を
安倍川で取れる砂金に見立て、
つきたてた餅にまぶして、
『安倍川の金な粉餅』
と言って献上したんだ。
大御所様はこれを大層喜んでな、
安倍川にちなんで
安倍川もちと名付けたというぞ」

「へぇ、きな粉餅を
『金な粉餅』とは
うまいこと言ったな、
すると、この
かき玉汁は
なんというかな、
ニコラス」

「かき玉汁か、
はは、
やるな真之介、
それは献上できんから、
安倍川汁にはなれんな。
まったく
真之介にはまいる、
そういえば、
まいるといえば、
隠密易者め、
まいっておったなあ、
が、
ここんとこ、
あの隠密め、
さっぱり姿を見せないが、
どうしたのかな
な、真之介」

「ああ、
居たら居たでうっとうしいが、
居ないとなると、
ちったぁしんぺえになるな。
しかし、
あいつのことだ、
また、きっと、
何かに化けて現れる、
それまでは、
どこかに
隠れとるのだろう、
な、
今度は
何に化けるかな、
ニコラス」

「そうだなぁ、
明日早くなら
坊さんだな」

「ほう、
どうして坊さんだ
ニコラス」

「袈裟着るだろ。
な、
はは、
真之介、
おや、
今、
屁の音がしたぞ、
真之介、
屁こいただろ」

「何を言う、
へなどこいとらん、
すると、
ご隠居」

「おいおい、
酔っぱらいは、
屁などせんぞ、
真之介」

「はぁ、
すると、
三人とも屁をしてないと言うことは、
残るは隠密かな、
この座布団の下なんかに、
間抜けに隠れてたりしてな、
な、ニコラス」

「そうだな、
まあ、
隠れていても、
屁をこいて、
見つかっちまうなんざ、
あいつのやりそうなことだ、
見るからに、
あまえんぼうな顔をしとる、
隠密というより、
あんみつだ。
どこかに隠れておって、
我慢できなくて、
屁をしてしまったんだな。
あんみつはしょうがねぇな。
あっ、
襖が
ガタガタ
いっとるぞ、
隣の奴が暴れとるのかな、
あっ、
あ、
あ、
開いた」

「おい、
さっきから聞いとればなんだ、
あんみつだとお、
冗談じゃない、
隠密は屁などしとらんぞ」


今日の創作都々逸#84

満員電車 女子高生が
オナラしちゃった 言い訳するよ

(隣のおじいさんに、
お身体どこか、
お悪いのですか、
と言うと、
すかさず、おじいさん、言い返した)

ワシのからだが 
どこか悪いと 
なぜにあんたが
屁をこくの

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月5日木曜日

由井宿薩多峠の診察


江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう 

今日の創作小咄#52
歌川広重 東海道五十三次 由井 由比

 

↓ PLAYでは千一亭本当が「由井宿薩多峠の診察」でご機嫌を伺います


「ご隠居、富士山が綺麗ですなぁ」

「ああ、真之介、
薩多峠(さった峠)は
『富士山鮮やかに見えて、
東海道第一の風景となるべし』
と言われているところだ、
断崖絶壁越しの富士は実に見事だ、
のう、ニコ、ん、ニコラス、
腰が引け取るぞ」

「そうだぞ、
ニコラス、
その方は、
仮にもケンペル先生の愛弟子、
医者なのだから、
もっと医者らしく歩けよ」

「何を言うか、
真之介、
医者らしく歩くとは、
どのような歩き方ぞ」

「そりゃあ、
こう、
胸を張って、
顎を出して、
頬骨越しに見るんだ」

「頬骨越しって、
頬骨など無いぞ」

「あ、そっか、
ニコラスは
外人だったな、
じゃ、鼻越しに見ろ」

「ふーん、
こんな感じか、
これで医者に見えるか」

「どうかな、
あまり見えねぇな、
そうだ、
今度から、名前を言うときは、
『医者のニコラス』と
言えば、そりゃ医者に見えるはずだ、
でも、
どう見ても、
ヤブっぽいな、
それじゃ、
ニコラスの手に掛かったら、
助かるものも、助からないな、
あ、
わかった、
手を前で揉んでるからだ、
それじゃ
どう見ても
丁稚小僧だ」

「手を揉んでるのは寒いからだ」

「おや、
真之介、ニコラス、
そこで
うずくまっているお二人がおるぞ、
何事かであろう、
助けて上げなさい」

「はい。
あの、
そこのご婦人、
いかが致しましたか」

「はい、
ありがとうございます、
このように、
娘が急に差し込みまして」

「ああ、
それなら、
ご隠居がお持ちの
万金丹があるよって、
ご安心召され」

「はあ、それはそれは
ご親切に、
いずれのお方でございましようか」

「はい、
拙者は真之介と申します、
そして、」

「あ、
拙者は
医者のニコラスです」

「あら、
お医者様ですの、
すいません、
でしたら、是非、
娘を診ていただけませんか」

「あ、
はい、
では」

「ニコラス」

「大丈夫だ、
真之介、
医者の振りするだけだ」

「そっか、
ん-、
お、
おい、ニコラス、
な、なにやってるんだよ、
なに足でツンツクしてるんだよ」

「だって、
手にかけたら、
助かるものも
助からないだろ」


今日の創作都々逸#83
(昨日、NHKの『お好み寄席』で牧伸二さんを見ていましたら、
あれっ、都々逸もこの節で唄えるかも。ということで、
さっそく唄ってみました。)

恋の別れは 事故ゆえに
別れた後も 思いは残る
会わない分だけ 綺麗になった
なかなか治らぬ 好印象

(アーアヤンナッチャッタアーアオドロイタ)

2009年11月4日水曜日

吉原宿窓下釣り

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#51
歌川広重 東海道五十三次 吉原 左富士

↓ PLAYでは千一亭本当が「吉原宿窓下釣り」でご機嫌を伺います



「ご隠居、ここはいい宿ですな、
田子の浦と富士山が
両手に見えますぞ」

「そうだなニコラス、
いい眺めだ、
『田子の浦に
うち出でて見れば白妙の 
富士の高嶺に雪は降りつつ』
これを詠んだ山部赤人も、
二階からのこの景色は見ていまい、
二階からの富士は格別だ、
富士もめでたいが、
めでたいと言えば鯛だ、
こっちの窓下を見ろ、
すぐに川だぞ、
いや、川と言うより、
田子の浦だ、
このような河口は
訳あって、
時として、
大物が釣れるのだ」

「え、ご隠居、
その訳とは」

「ああ、
ニコラスは、
海水が塩辛いのは
知っておるな」

「はい」

「塩が混じっている海水は
川の淡水よりも重いのだ、
よって、満潮ともなると、
川に流れ込んでくる海水が、
川底の砂を巻き上げる、
すると、
小魚の餌が舞い上がり、
小魚が集まってくる、
しからば、小魚を狙って、
大物がやってくるという訳だ
な、ニコラス」

「なるほど、
それで、
カモメがあんなに沢山
飛んでいるんですね。
魚の数より多いほどです」

「うむ、
ニコラスは釣りをしたことが
あるのか」

「もちろんです、
十五夜の時に、
真之介と釣りました。
引きの具合はわかります」

「ほう、
しかし、
引きだけでどんな魚か
わかるまい」

「いえいえ、
鯖なぞ、
直ぐにわかります」

(あ、突然ですが、
千一亭本当です、
いつもお読み頂きまして、
ありがとうございます。
ここで咄に出ました、
「十五夜の釣り」は
小咄の番号で26です。
よろしくお願いいたします)

「ん、
そうだな、
なるほど、
では心得ているんだな、
おそいな、
真之介。
帳場から釣り竿を借りるのに、
いつまで掛かっておるのかの、
おっ、来た来た」

「お待たせしました、
ご隠居、
かようなもので、
良いのかと」

「おぅ、
真之介、
十分だ、
ん、
仕掛けは
長めにして、
な、
そう、
餌をつけて、
ん、
これでよし、
では、
我が輩は
帳場で
勘定を済ませてくるから、
二人で釣っていなさい」

「はい、
あ、行っちゃった。
真之介、
じゃ、
行くぞ、
せーの、
それっ、
どうだ、
おぅ、
真之介、
引いておるぞ、
それっ、
それ、
頑張れ、
あっ、
あー、
バレたか」

「うん、
バレたが、
大物だったな、
ブリかもしれん、
な、ニコラス」

「なに、
それはすごいな、
おっ、
真之介、
こっちも来たぞ、
来た来た、
よしっ、
それっ、
ん、
んー、
あー、
バレた、
いゃぁ、
こっちも
大物だった、
ブリというより、
ヒラマサだな、
ん、
違いない」

「おーい、
二人とも、
どうだ、
釣れてるか、
真之介」

「あっ、
あれっ、
ご隠居、
窓下に居るんですか、
気がつきませんでした、
たった今、
凄い引きで、
これは、
間違いなく、
ニコラスはヒラマサ、
拙者はブリでした」

「はは、
いいや、
それは違う、
引いていたのはワシだ」

「えっ、
聞いたかニコラス」

「あー、
それは違う、
引いていたのはカモメだろう」

今日の創作都々逸#82

雪の夜は
積もる恨みも 春なりゃ帯も
溶けて流れりゃ 皆同じ
   

2009年11月2日月曜日

三島宿平作爺さん

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう


今日の創作小咄#51
歌川広重 東海道五十三次 三島 朝霧

 ↓ PLAYでは千一亭本当が「三島宿平作爺さん」でご機嫌を伺います


「ご隠居、今夜も酒びたりですね」

「何を言うか、真之介、
ここ三島はな、
湧き出ずる富士山の地下水が、
川となって流れておるゆえ、
実に、料理も、酒も、そして、
人も立派だ。
よく、
オナゴは偉い、
男はだらしない、
などと言うが、
男だって、
爺さんはちがうぞ、
爺さんというのは
偉いんだぞ。
すぐそこの
茶店におった平作爺さんだ、
爺さんのおかげで
有名になったのが、
剣豪荒木又右衛門だ。
平作爺さんの義侠心には
心打たれるぞ、
自分を犠牲にして
仇の居場所を教えたんだ。
真之介も、ニコラスも、
直ぐに爺さんにはなれとは言わんが。
な、真之介」

「ご隠居、
その荒木又右衛門とは。
剣豪とか」

「さよう、『36人斬り』
などともいわれておるぞ、
刀折れても、
直ぐに代わりを持って、
また折れても、
また代わり、
また代わり、
また代わりと
戦ったそうだ、
おっ、酒が無くなりそうだ、
真之介、この旅籠は
風呂の向こうが台所だったな、
冷やでいい、
徳利一本、
持ってきてくれ」

「はぁーぃ、
じゃ行ってきます、
ああ、
いいよニコラス、
一人で行ってくる、
まったく
ご隠居は
人使いが荒いなぁ、
んー、
今夜は冷えるなぁ。
あ、
すいません、
徳利一本ください、
冷やで、
ええ、
そうです、
あ、
どうも。
なんだよ、
部屋まで
持ってきてくれても
いいのになぁ、
ま、
安い分仕方ないか。
ただいま、
ご隠居、
おまた。せ、
なーんだ、
寝ちゃってるよ、
もう潰れちゃったのかなぁ、
いや、まだ早いから、
すぐに起きるだろう。
このまま、
布団を掛けておくか。
あれっ、
ニコラスは、
あーっ、
風呂だな、
一緒に行こうと
言っとったのに、
我慢のない奴だな。
じゃ、
酒はここに置いてと、
おっと、
まだ前のが残ってるぞ、
さらにこんなにあっても、
呑みきれないだろう、
うん、
ちょっと
呑んでみるかな、
いや、
ご隠居が目を覚ましたら
怒られるな、
止めとこ、
ん、
まてよ、
そうだ、
湯呑みに入れて、
押し入れの中で呑めば
わかるまい。
よしっ、
こうして、
おっと、
これでいい。
これで、
押し入れを
そっと開けて、
と、
おっ、
なんだ、
ニコラス、
その方、
押し入れの中で
あっ、
湯呑み持って、
さては、
隠れて酒呑んでたな」

「いや、
これから
呑もうとしてたところだ、
真之介こそ、
湯呑みに酒を入れて、
どうするつもりだ」

「な、
なに、
これは
その方のお代わりだ」

今日の創作都々逸#82

はじめの一膳 ただ食うばかり
おかわりだから あじわえる
            

箱根関所占い師

江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#51
葛飾北斎 富獄三十六景 相州箱根湖水


 ↓ PLAYでは千一亭本当が「箱根関所占い師」でご機嫌を伺います


「ご隠居、
腹減りました、
やっと関所です」

「そうだな真之介、
そこの茶屋で一休みしよう」

「おや、
ご隠居、
茶屋の前に、
占いが出ておりますぞ」

「うむ、
真之介、
向こう岸のあの大きな赤い鳥居こそ、
箱根大権現だ、
箱根は霊場なれば、
さぞかし占いも当たろう」

「さようで、
ニコラス、
ちょいと占って貰おうかな」

「なに、お花ちゃんのことだろ、
真之介」

「良いではないか、
おっ、占い師が手招きしておるぞ、
ちょうどいい、
あの、
あ、
ども、
い、
いえ、
結構です、
また来ます、

ご、
ご隠居」

「どうした真之介」

「あれは隠密です」

「なに、
どうしてわかった」

「だって、硯師ですよ、
元浪人の」

「なに、今度は
占い師に化けおったか。
うーん、
わからんな、
まこと隠密であろうな、
しかし、隠密にしては、
やることがわかりすぎる、
な、ニコラス」

「いえ、ご隠居、
そんな隠密は居まいと
思わせる作戦では」

「なるほど、やるな。
ここはひとつ、
真之介、
その方が行って、
化けの皮を剥いでこい」

「えっ、
またオレですか、
えーっ、
ニコラス、
その方も、
一緒に来い、
あ、
あの、
あなたは
先刻、小田原でお会いした
硯師さんではござらんか」

「えっ、
あっ、
は、はい、
そ、そうです」

「ん、
そうですだと、
やはり、
化けの皮剥がれたな、
隠密め」

「えっ、
ちょっ、
ちょっとまって下さい。
隠密なんてめっそうもない。
実は、
懐具合がさびしいよって、
硯師では金にならんので、
心得ある占いをやっております。」

「はぁ、
ニコラス、
どう思う」

「真之介、
そんなわけがないだろう」

「おふたり、
どうです、
好きなオナゴとの行く末など、
得意とするところです。
占ってしんぜましょうか」

「えっ、
行く末がわかるんですか」

「なんでもわかりますぞ」

「いゃ、
あ、
では、
少しだけお願いしたい」

「おいおい真之介」

「ご隠居には内緒ぞ、
ニコラス、
で、
どうすれば
良いので」

「そ、
そう、
占うには、
いくつかの質問に
正直に、
答えて貰わねばならない、
いいですか、
正直に、
答えないと、
オナゴとの行く末も、
どうなるかわかりません」

「あ、は、はい、
わかりました、
では、
どうぞ」

「ん、
では、
え、
その方はこれより、
いずこに行かれるかな」

「はい、京です」

「ん、
では、
え、
それは
何の為でござるな」

「えっ、
何の為と言われても、
な、ニコラス」

「ちょっと待て、
真之介、
えー、
さっきから聞いておれば、
占い師殿、
そのような目的など、
占い師ならば、
占えるはずでは。
占って頂きましょうか」

「えっ、
い、いや」

「なに、
占えぬと
言われるか」

「い、
いや、
もちろん、
占える、
ん、
では、
アジャラカモクレン
キュウライス
テケレッツノパ、
うむ、
なるほど、
出ました」

「なに、
な、
なんと出ました」

「その方に聞けと出ました」


今日の創作都々逸#82

占いが
好いた女に 袖振らせても
マ抜けちゃいない うらマない
        

2009年11月1日日曜日

箱根山甘酒茶屋


江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう

今日の創作小咄#50
歌川広重 東海道五十三次 箱根 湖水図


 ↓ PLAYでは千一亭本当が「箱根山甘酒茶屋」でご機嫌を伺います


「ニコラス、
うっ、
腹いっぱいだぁ、
うっ」

「真之介、
団子ばかり
食い過ぎだぞ。
しかし、
なんとか、
最西海子(さいかち)坂も
橿木(かしのき)坂も
越えたのう、
そのうえ、
甘酒茶屋の団子は
うまかったし、
ここから先は 
石畳らしいから、
もう大丈夫だな。
次は関所の甘酒茶屋で
一服しようぞ」

「甘酒茶屋といえば、
ニコラス、
きいとったか、
茶屋の主人と
浪人者との話。」

「おう、なんだか、
詫び証文がどうとか
言ってたな
何の話かな、
真之介は聞いてたのか」

「ああ、
あの茶屋で春頃な、
呑んだくれたよっぱらい侍と、
馬子が
馬に乗れ、
乗らぬと
喧嘩になったが、
何を思ったか、
侍が両手をついて謝り、
詫び証文まで書いたというのだ、
さすがに、
聞いていた浪人者が、
『だらしのない奴、
拙者なら一刀両断にしてくれるわ、
そのような者、
さむらいではない、
にむらいだ』、
とか言っておった。
しかも
その侍の名が
『燗酒よかろう』
と言うからな、
ニコラス、
ふざけた奴ぞ」

「いやいや、
武士が馬子に土下座をするとは、
よほどのことがあったのだろうな」

「ん、
あ、
そうか、
わかった、
奴は。
厠に行きたくて、
我慢できなかったんだな」

「それは真之介だろ」

「こらこらこら、
二人とも、
少しは喋らないで歩け、
石畳とはいえ、
険しさに変わりないぞ、
そうだ、
こうゆうのはどうだ。
関所の傍の
甘酒茶屋に着くまで、
喋らないことにして、
そこまで喋らなかった者は、
喋った者の団子を食って
良いことにしょう。
よいな、
なんだその顔は、
真之介、ニコラス、
では
手を叩くのが
始めの合図だ。
いくぞ、せーの」

(パン)

「あ、
びっくりしたあ、
ご隠居、
いきなり、
顔の前で
手叩くから」

「あぁっ、
真之介、
喋ったな」

「えっ、
あ、
と言ってる
ご隠居だって、
今、喋りましたぞ」

「おっ、
あ、
しまった、
ということは、
団子はみんなニコラスか」

「やったあ、
これで団子は
みーんなオレのもんだ

あっ」

今日の創作都々逸#81

箱根湯本は おしのび湯本
今はいずこと しのばれる