江戸の頃もきっとこんなふうに見つめられていたのでしょう
今日の創作小咄#50
歌川広重 東海道五十三次 小田原 酒匂川
↓ PLAYでは千一亭本当が「小田原の蒲鉾」でご機嫌を伺います
「ご隠居、小田原ですな」
「そうだな真之介、
小田原と言えば蒲鉾だな、
あっちもこっちも蒲鉾屋だ、
ん、どうしたニコラス」
「いえ、
先刻の蝦蟇の油売りに
負けぬくらい、
この蒲鉾屋の売り口上が
なかなかに見事で」
「さよう、
ここは老舗だな、
うまい口上だ。
口上から客に
うまいと言わせる、
さすが老舗だな。
蒲鉾を盛るのだって、
一人前の職人になるには
二十年掛かると言うぞ、
どれ、
入ってみるか、
ん、
たのもう、
あ、
いやいや、
まだどれとは決めておらん、
こっちが蒸し蒲鉾で、
こっちが焼き蒲鉾か、
なに、
味見、
おう、
どれ、
ん、うまい、
ん、うまい、
ニコラスもどうだ」
「ええ、
あ、じゃ、真之介の分も、
真之介、
ほら」
「ああ、
かたじけない、
どれ、
おお、
これは美味い、
が、
なあ、ニコラス、
お向かいの
あの真新しい見世を見ろ」
「なんだ」
「ん、気づかないか」
「ん、なんか変か」
「見ろ、並んでいるのは
竹輪ばかりだ、
なぜかな、
解るかニコラス」
「竹輪屋ってことだろ」
「看板に蒲鉾って書いてあるぞ」
「おお、
たしかに、
なんだ、
真之介でも解らぬ事があるんだな、
ん、
真之介、
ご隠居に聞いてみろよ」
「えっ、オレがか」
「竹輪一時の恥ぞ」
「ったく、
ニコラスは
よく、そう、いろいろと
文句を知っておるの。
どれ、
あの、
ご隠居、
お向かいの新しい見世なんですが、
蒲鉾と書いて、
竹輪ばかり売っているんですが、
なぜです」
「なぜって、
ん、
あれは新しい見世だ、
売り口上もやっとらんだろ」
「なるほど、
口上ができないと、
蒲鉾は売れないんですね」
「いいや、
まだ板についとらんのだ」
今日の創作都々逸#81
♪
うわのそら
居るのに何処を 見ているやらと
無視て妬いても 蒲やせぬ